【ストゥディア『民法3 担保物権』刊行記念】山本敬三先生に聞く(その②)
物権・担保物権問題
このインタビューは、3巻の刊行を機に行われる……ということで、インタビュアー特権で、3巻について、少し詳しくお話しさせていただきたいと思います。
実は、当初、物権と担保物権とを合わせて1冊とする予定が、頁数が足りなかったことから、2冊に変更になり、第6回目の会議でお別れすることが決まりました。既存の各種の教科書でも、物権と担保物権とを1冊にまとめてあるものと、別々にしているものとがありますが、ストゥディア民法で、物権法と別れてよかったのかどうか、未だに自信が持てないところもあります。
1冊にまとめるのと、2冊に分けるのと、どちらが良かったのでしょうか。
お別れの経緯はいまご示唆いただいたとおりで、ストゥディアシリーズとしての頁数の制約があり、多くても300頁程度ということでした。コンセプトを設定した当初は甘く見ていたのですけれども、行間を埋めようとすると、分量が増えるんですよね。行間分増えるので、当たり前ですね。なので、項目を厳選しようということで、債権総論などはかなり無理をして厳選して、ようやくぎりぎりに収まったのですが、そういうことからすると、物権・担保物権で一冊というのはもともと無理があったので、お別れするのはやむをえなかったかなと思います。
もし1冊にできていたらどういうメリットがあったかというと、担保物権法は物権法を前提とするところがありますので、参照がしやすくなります。別の本にすると、担保物権の巻でも、物権法の基本の部分に最低限触れなくてはならず、結果として分量が増える。これはデメリットと言えばデメリットかなと思います。あと、多くの大学では、パンデクテンに従って物権と担保物権をセットで教えるところが多いのではないかと思うのですけれども、1冊であれば、それだけの教科書指定で済みますし、読者の方の出費が少なくなるのもメリットですよね。
でも、2冊には2冊のメリットがあると思います。いちばん大きいのは、ぶ厚い本だと、それだけで委縮してしまって手に取ってもらえないということはあるんじゃないでしょうか。人のことは言えませんけれども(笑)。400頁超えてくると、やはりちょっと、値段の問題だけではなくて、圧倒されてしまうようなことがあるだろうと思います。さらに、数としては少ないのかもしれないのですが、大学によっては担保物権と債権総論を結び付けて講義をするところもあります。そうなると、物権と担保物権のように、よりパーツに分かれているほうが、授業の内容に沿った教科書指定がしやすくなるように思います。あと、担保物権に特有のことかもしれないですが、実務に出てから学び直しの必要を感じられる方も一定数おられるのではないでしょうか。そういう方たちには、担保に特化しつつ、物権総論に関わる最低限の事柄も書いてあるので、メリットが大きいかなと思います。
結局のところ、一長一短があるので、まあ、これでよかったんじゃないかなというのが、私の結論です(笑)。
ありがとうございました。
立教大学では物権法の授業と担保物権法の授業が別なので、教科書採用しやすくなりました。また、実務家の方の学び直しに役立つかもしれない点につきまして、本をお送りした実務家の先生方からコメントをいただいて、まさにそのような感触を受けました。
ただ「根抵当の箇所をもっと充実させよ」というコメントをいただきましたので、改版のときにがんばります(笑)。
おすすめポイント
私からは最後に、3巻の中で、個人的なお気に入りポイントを教えてください!
これも難しいですねえ。
藤澤さんの担当部分でいえば、いちばん印象に残っているのは、第8章「抵当権の実行①――優先弁済権の実現・共同抵当」の、とくに優先弁済権の実現の部分ですね。ここはすごく技術的で、民法だけではなく民事執行法などの手続も関わってくるのですが、これが驚異的なわかりやすさで書かれている。草稿をお示しいただいたときに、見開きで、横に吹き出しが出ている図で、あまりのわかりやすさに感動しました。本にするときにも、いろいろな制約がある中で、それをうまく表現していただけて(135頁・137頁)。この部分は純粋に感動しました。第9章の法定地上権のところも、ステップを踏んで非常にわかりやすく説明されていて、これなら少なくとも基本は絶対に大丈夫だよね、と思います。
鳥山さんは、あとから見ると、重い負担を担われていたなと思います。それがいちばんわかるのが、第14章の譲渡担保でしょうか。譲渡担保は、問題がすごく多くて、かつ難しく、迷路に陥りやすいところなんですよね。ついいろいろ書きたくなってしまうところなのですが、最も重要な基本事項を厳選して書いてくださっている。これは大変なご苦労だったのではないかと思っています。第4章の物上代位や、第12章の留置権も同様に、ご苦労がしのばれます。
実際お書きになった側からは、いかがですか? ぜひここを見てほしいといったことはあるでしょうか。
物上代位と譲渡担保は、すごく苦労して、何度も書き直したのは間違いないですね(笑)。
あと、私自身が意外と気に入っているのは、48頁あたりの遅延損害金と利息の話ですね。授業で説明しようとするとすごく時間がかかるわりに、それだけの価値があるかわからないところなのですが、これからはもう、「ここを読んでおいて」で済ませられるなと。
先取特権についても、ふだんの授業ではなかなか扱う余裕がないのですが、「教科書を読んでおいて」と言えば大丈夫なような解説が書けたのではないかと思っています。
鳥山先生は抵当権の本質などの専門家で、私はどちらかといえば動産譲渡担保などをやってきて、お互いが得意分野をチェンジして書いているというのが、3巻のいちばんの見所ではないかなと思っています。「鳥山さんの前で抵当権書くんかい…!」ってヒヤヒヤしていました。
逆も一緒ですよ(笑)。
ですよね!(笑) 諸事情あって入れ替えたのですが、だからこそ勉強し直したし、それが結構大きなポイントかなと思います。
48頁の図、あれすごくいいですよね。246頁の流れ図とかも。「図があって、後から説明がついてくる」というような当初のコンセプトがあったので、図はとても頑張りました。
あと、山本先生が言ってくださった第8章の手続は、すごく頑張って書きました。鳥山先生と私の共通の友人に手続法の専門家がいて、ふだんは厳しいことを言われるのですけど、今回は褒めてもらいました(笑)。鳥山さんも、物上代位のところで、債権差押えについてすごく詳しく書かれていますし、手続法を頑張ってよかったです。
全体としては完璧に素晴らしい本ではないかなと、自画……自分で書いてないので「自画」ではないかもしれませんが、自賛しています。
続いて、ストゥディア民法を教科書として使ってくださる先生方や学生の皆さんのために、山本先生のコメントをいただいてみようと思います。
ストゥディア民法の使い方
大学の法学部の授業の教科書や参考書として、先生方にストゥディア民法を採用していただく、あるいは学生さんに読んでいただく場合、どのような使い方がおすすめでしょうか。「行間を埋める」というコンセプトであったわけですが、埋めてしまうと授業で話すことがなくなってしまうかな? というのはすこし気になりました。
また、もう一つ気になる点は、ストゥディア民法は、読みやすさを重視して、ですます調、平易な言葉づかいで書かれていることです。学生さんが、法学部の試験答案や資格試験の答案を書くときに、それを真似してしまうと、あまりよくないかもしれません。法的な文章を書くという点から見ると、少し別のもので補充する必要はあるでしょうか。
採用していただく側、先生方のほうの使い方ですが、まずは予習用として使っていただくというのはありうると思います。多くの学生さんは、本を一度読んだだけではよくわからないと思いますが、講義に先立って読んでもらうことで、講義の内容が理解しやすくなるのではないかと思います。
また、こちらのほうがより重要かなと思いますが、復習用として使っていただけると思います。授業でわからなかったことや、時間の問題で扱いきれなかったところは、この本でフォローしてもらう。先ほど申し上げたとおり、「一人で読める」「独習できる」本を目指して作ったので、予習用としても復習用としても、とてもいいツールになりますよ、ということはアピールしたいです。この本で丁寧に書かれているところは省略して、特に重要と思われる部分により時間を割いて講義をするといったこともできるように思います。
学生さんの側も、たしかにこの本はですます調で書かれていますが、これをである調に変換すれば十分通用すると思います。行間を書ききろうとしていますので、その「行間」にあたる部分が答案に書かれていると、よくわかっているなと評価されると思います。資格試験についても同様で、率直に申し上げれば、ストゥディアに書かれていることをしっかり理解して、それを答案に書ければ、十分合格レベルに到達できると思っています。
もちろん、ストゥディアだけで勉強するのがいいかどうかは人それぞれですが、たとえば、LEGAL QUESTなどでさらに勉強してみて、そのあとにもう一度このストゥディアに戻ってもらえると、いかにこの本が、理解すべきことを行間を含めて書ききっているかがよくわかると思うので、それで試験に臨んでもらえれば、怖いものはないと思います。
民法を学ぶときの心構え
民法は、家族法のように私たちの日常に密接に関わるものから、担保物権法のようにビジネスの世界に関するものまで、とても幅広い問題をカバーしていて、条文の数も多いです。
ストゥディア民法も7巻にわたることになっていて、このような膨大な範囲を勉強することに気後れしてしまったり、苦手意識を持っている学生さんも少なくないように思います。7巻全体を監修されている山本先生の目から見て、どの分野から取り組めばよいといったアドバイスがあれば、教えていただけないでしょうか。
「正しい順序」というのはもちろんないのですが、多くの場合、総則の教科書は、ここから民法に入ることを前提に書かれています。ストゥディアもそうです。なので、迷うのだったら、総則からでいいのではないかと思います。総則は抽象性が高くて、そもそも「入門」することもできず、最初から破門されてしまうということが起こりやすいのですが(笑)、ストゥディアの総則はそうならないように工夫を凝らしていますので、迷うのであれば、ストゥディアの総則からスタートしてみてはどうか、というのがアドバイスです。
ただ、最初からつまずいてしまったり、面白みが感じられないと、そこから先にはおよそ進めなかったりすると思いますので、そういう不安のある方は、自分が面白いと感じる、あるいは勉強してみたいと思える分野から始めるというのも、十分ありうると思います。担保物権はちょっと難しそうなんですけど(笑)、債権総論や契約、不法行為、物権、あと家族などですね。関心をもてるとこから入って、拡げていくというのもありだと思います。
実務に出てから学び直しをしたいと思っておられる方もいらっしゃるかなと思います。そういうニーズにもこのストゥディアは対応できると思っています。担保物権は特にそうですね。お薦めですのでぜひ読んでみてくださいと言いたいですね。
それだけに、ストゥディアの民法については、できるかぎり早くに全巻完結を目指さなくてはならないと思っています。読者の方には期待してお待ちいただきたいです。
早く全巻刊行できるといいですね。
(その③へ続く)