痛み信号を適切に処理する能力
本日の現場からは、
【痛み信号を適切に処理する能力】と題してお話します。
題名は、なんとなく堅苦しくて難しい話の感じはしますが、そんなことはないので安心して読んで下さい。
本題に入る前に、まずは痛みの種類とメカニズムについて、簡単におさらいしておきます。
痛みの種類とメカニズム
痛みは大きく2つに分類され、
全身に分布しているそれぞれの受容器によって脳へとインプットされる電気信号です。
1つ目は、一次痛(First Pain)と呼ばれ、高域値機械受容器で侵害刺激を受けとり、Aδ線維によって脊髄後角に送られ、外側脊髄視床路を通って、脳の大脳皮質体性感覚野にインプットされ痛みを感じます。主に、針で刺されたような強く鋭い痛みです。
2つ目は、二次痛(Second Pain)と呼ばれ、ポリモーダル受容器で侵害刺激を受けとり、C線維によって脊髄後角に送られ、前脊髄視床路を通って、脳の大脳辺縁系にインプットされ痛みを感じます。主に、内臓痛などの鈍い痛みです。
痛み信号は適切にインプットされているのか?
さて、ここからが本題です。
過去の現場経験の中で、練習中に選手とこんなやり取りがありました。
キャッチボール前に、肩や胸郭などの簡単なストレッチを行っている際に、
若手選手の取り組みが甘かったので後ろから補助したところ
「イタッ」と言いました。
側屈を少し補助した際に、腰に痛みを感じたようなんですが、
話を聞くと、
数日前に、スクワットをした際に腰に痛みが出現したとのことでした。
その後の練習を注意深く遠目に見守っていたんですが、
通常練習やランニングはいつも通り行っていました。
そして、その日にはピッチングも行っていました。
ピッチングというのは、肩や肘だけでなく、全身運動で相当な負荷が体にかかります
ピッチング後に、腰はどうだった?と聞いてみると、
「ピッチングは大丈夫でした!」と元気よく返答がありました。
もちろん、それ自体は安心したんですが、
このやり取りをして、
これは危ないなーと思いました。
痛み信号は、スポーツ選手であるということ以前に、人として生きていく上で非常に大切な信号です。
側屈で痛いのに、ピッチングでは痛くない。
この時点で、すでになんかおかしいですよね。
しかも、痛みの出る側屈方向は非投球側への側屈なので、つまり投球時と同じ方向です。
それでも、ピッチングでは痛みはないとうことでした。
イタッと言ったのが、咄嗟に出てしまったウソならまだ可愛いんですが、
本当に、「痛み信号」として脳にインプットしているのであればこれは大問題です。
その痛みは、本当か?ウソか?
野球選手はもちろん、スポーツ選手は日々相当な負荷を身体にかけながら、肉体、技術、精神を鍛えています。
トレーニングで言われるところの、過負荷の原理や、リハビリやトレーニングでは、体的にこれ以上はもう無理っていう寸前のギリギリまで攻めることが必要な要素だと思っています。
そのラインを見極める為にも、大切な指標の一つが「痛み」です。
痛みに強い人と痛みに弱い人がいるのは、皆さん承知の通りで、
痛みに弱い人だけが問題ではなく、痛みに強い人も問題で、
ここで一番の問題は、「痛み」を「正確な痛み信号」として脳に送ることができているのかどうかということです。
アスリートはプレッシャーなどのストレスがかかる極限の中で戦っているので、アドレナリンやコルチゾールなどのホルモンが体内から分泌され、ちょっとやそっとの痛みは感じなくなることはよくあることです。
それゆえ、本当の痛みを見極めるのは難しいですが、決してウソの痛みを正確な痛み信号として脳へインプットすることだけは避けましょう。
慢性痛が生む新たな痛み
本来痛みとは、体を守る反応であり、体の異常を知らせ、その異常が治ったら痛みは消えるというのが痛みに対する健全なシステムであるにも関わらず、慢性痛はそのような反応が起こらず、痛みを処理するシステムがおかしくなってしまった状態です。
これは、一般の方だけでなく、アスリートも陥る可能性は大いにあります。
なかなか休むことが出来ない選手などで多くみられます。
痛みを感じながら、我慢をしてプレーを続けることで、痛み信号は出ているにも関わらず、一向に制限がかからないので、通常の痛みシステムは破綻します。
そして、その痛みは違和感などへと姿を変え、存在し続けようとします。
そうならない為にも、痛みを出来る限り早く取り除き、痛みのない状態に回復させる必要があると同時に、感じている痛みは、組織損傷などによる本当の痛みなのかを判断し、ウソの痛みであれば、痛みを処理するシステムへの介入が必要だと思います。
今回の現場で起きた出来事は些細な事かもしれませんが、選手がこの先長い野球人生を歩んで行く上では、とても大切な事です。
自分が「痛い」と感じている信号は、本当の痛みなのか?
痛みの回路が異常であれば、時間をかけてでも修正する必要があります。
本当に必要な痛みを知って、適切な痛み信号を脳へインプット出来るようにする能力が必要だと感じました。
というわけで、
【痛み信号を適切に処理する能力】と題して書かせて頂きました。
本日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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それでは、この後も心身ともに充実した時間をお過ごしください
以上、現場の竹田祐平からでした。