「直感」文学 *家族が増えるというコト*
妹が結婚した。
それは僕としては純粋に喜ばしいことであるし、ただ素直に祝福したいと思う。
「家族が増えるってどんな感じ?」
昨日妹から電話でそんなことを言われた。
僕はいつからか、あまりお互いがお互いのことを意識しなくなっていたから、突然の電話、そしてそんな内容といきなり言われても、僕は何をどう返したらいいのか分からなかった。
その内容云々の前に、妹に対して僕がどのように接していたのか、その根本を見失ってしまっていたのだ。
「どうって、別に、普通だよ」
「普通?普通って何よ」
彼女のいう通りだ。普通って、何の返答にもなっていない。
「いや、なんて言うか、家族が増えるとか増えないとかそういうことよりも、ただお前が結婚してくれたことを嬉しく思うよ」
少しは兄らしい返答だっただろうか。しかし彼女にはあまり響いていないようだった。
「そういうことを聞いているんじゃないんだよ」
そう言われてしまう。そしてゆっくりと電話は切れてしまった。
妹がそう言い出す理由が分からない訳でもない。僕たちの両親はまだ僕たちが幼かった頃に離婚して、僕たちは双方の親に引き取られていった。
だから、僕たちは家族が”減る”ことしか知らなかった。たとえ「心の中で家族」だと思っていても、今目の前にある目に見える現実の方が、強い説得力を持っていた。
家族が増えること。それは、ただ、僕を穏やかにさせるもの。
今の僕には、それくらいのことしか言えない。
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