「直感」文学 *洋服との関係*
「私これずっと前から欲しかったんだよねー」
ユズキはウインドウに飾られたマネキンを見ながら、そう言った。
もちろんそれが”マネキン”ではなく、マネキンが着用した”洋服”が欲しいということくらいは、いくら僕でも分かった。
「へえ、高いの?」
「まあ、ハイブランドだからね、10万くらいはするんじゃないかな」
洋服一着に10万もかける理由が僕には分からなかった。10万もあったなら、もっともっと他のものに使うべきだし、洋服なんて形を持ったただの布の寄せ集めでしかないじゃないか。
僕はそう思えてならなかったけど、きっと皆その”布”が欲しい訳ではないのだということも、最近になってようやく理解出来るようになってきた。
皆そこに負荷されたブランドなどを買っているのだ。
そして洋服が与えてくれるのは、物質的な布の喜びではなく、この”ブランド”を着ている、この洋服を着た後の”自分”。それらから得られる幸福感を得るために、高いお金を出してまで買っているのだと思う。
しかし、それは本当に意味を成したことなのだろうか。
自己満足で終わるならそれでいい。しかし、そこに相手の評価を求めたとしたら、それは万人に共通する項目ではないだろう。
現に僕は、普段ユズキがどんな洋服を着ていたかなんて覚えていないし、どんな洋服を着ていようが、正直どうでもよかった。
「ねえ、買って」
ユズキは甘えた声で、僕の腕を掴んだ。
「しょうがないな」
僕はそれに答え、お店の中に入っていった。
いずれにしたって僕だって同じなのかもしれない。
こうやって洋服を買ってあげることで、僕は、ユズキとの肉体関係を買っているのだから。
「たまには奥さんにも服を買ってあげなよ」
そういった微笑したユズキを、僕は純粋に可愛いと思った。
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