「直感」文学 *暖かくて冷たい食べ物*
「暖かいものの中に冷たいものが入っているって食べ物あるじゃない?……ごめん、今すぐにそういった食べ物にどんなものがあるのか思い出せないのだけど。……ただ、そういう食べ物よ、分かるかしら?私はそれがとても好きなのよ」
フジサキユカは、僕がした「どんな食べ物が好き?」という質問にそのように答えた。
僕は決してそんな返答を求めていた訳ではない。ただもっとフランクに、(言ってしまえば)適当な答えだってよかったのだ。ただ自分が好きなものを答えればいいし、もっと女子っぽい返答だっていい。酒の肴のようなオヤジ志向だって別にいいと思う。
だけど実際の返答は、「暖かいものの中に冷たいものが入っている食べ物」として、しかもそれは曖昧この上ないのだった。
真摯に答えてくれた気持ちは十分に嬉しいのだけど、その返答は僕にとっては難易度が高かったように思える。
「え?暖かいもの?冷たいもの?」
「違うの。ベースは暖かいのよ、だけどその中に入っているものが冷たいの。そうね……、極端だけど、暖かいスープの中にアイスクリームが入っている感じよ」
フジサキユカが何を伝えたいのか、そしてそれが本心であるのか。僕にはそれを掴むことが出来なかった。
だって僕たちはまだ会ったばかりなのだ。
だけど、この見合いの場でそのような答えを返す彼女を、僕は少し愛おしいと感じたのも事実だった。
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