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「直感」文学 *小さなパン祭り*
パンを食べに来るなんて、僕からしてみれば馬鹿げてる。
そう思っていたのだけど、蓋を開けてみればその「パン祭り」とやらの地域イベントには入場制限がかかる程に人が溢れていた。
「信じられない……」
あまりにもストレートな僕の感想に、僕をここまで連れ出したケイコは笑っていた。
「そうよ。パンって世間的にすごく人気なんだから」
そう誇らしげに言うけれど、やっぱり僕にはまだその現実を受け入れられそうにはなかった。
「だってただのパンだろ?あの小麦粉を焼いただけの、素っ気ない、ただの塊だろう?」
ケイコは僕を人間ではない何かを見るようにして
「パンをそういう言い方する人初めて見た。……ちょっと大丈夫?」
と言いながら、僕の額に手を当てた。「ふふ、ちょっと熱いかも」なんて笑いながら。
いや、僕の頭がどうかなってしまったはずなんてないのだ。だってケイコと知り合う随分と前から、僕はパンの良さを知らないし、どうして皆がこぞってあそこまでパンを持て囃すのか理解できないのだから。
「別にどうだっていいじゃない。そんな考え、美味しいパンを食べればすぐに忘れてしまうんだから」
と言って、ケイコは僕の手を引いた。そして入場制限の列に並ぶのである。
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