「直感」文学 *生きている実感*
しばかれるような痛さを伴った寒さが、僕たちを取り囲んでいた。
許可もなしに、許しもなしに。
「こんなに寒いって……、なんだか生きてるってこと、実感する」
彼女はそう言って、マフラーを巻き直した。
「実感?」
僕は白い息と共に、そして含んだ笑いと共に、そう彼女に聞き返した。
「そうそう、なんだかさ、感じない?……ね?ほら?あー生きてるなー私、って。ね?感じるでしょ?」
矢継ぎ早に同意を求められても、僕が同調を示す隙間がそこにはない。
それに僕が同意するには、まだもう一歩、その説得力が足りないように感じる。
「えー、分かんないかなー。……だってこんなに寒いんだよ?普通分かるでしょ?」
「いや……」
僕は言葉を飲み込んでから、改めてそれについて考えてみる。
いや、変わらずとも、たとえ今ここが寒くなかったとしても、僕は生きていることを実感できるはずだ。そう思うばかりで、彼女のその意見にはどうしても同意できないままだった。
「君の言うことはよく分からない。僕は別に、今が寒くなくたって、生きてるってことは分かってるつもりだから」
僕がそう言っても、彼女は黙ったままで僕をただ見つめているだけだった。
しばらく間を置いてから、
「そう、それはきっと分かってないのよ」
と、ただその言葉だけを残して、僕たちは黙ったままだった。
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