あくまでもヘッダー

『短編小説』第3回 あくまでも自然の成り行きで、そんな夢を見ている、春の日と日常。 /全4回

「ねえ、お昼まだ?」
彼女の声は、僕が心地いいとする声域より少し高く思えた。そしてそれは、不快感を抱くには十分だった。
「は?昼?」
「だから、お昼ご飯」
と少し高いその声が、耳に付く。わざわざ答える必要もないように思えたけど、「まだだ」と俺は答えた。
 考えてみれば、この時俺は少し機嫌がよかったのかもしれない。そうでなければ、わざわざ「まだだ」などと答えたりはしないのではないかと思う。おそらく無視をしていたか、……いや、無視をしていただろう。
「それじゃあさ、一緒にどう?」
そう言って三枝千奈美という女は、俺を昼食に誘った。そして俺は、その誘いに乗った。彼女を性的な目で見ていなかったといえば嘘になる。というか、彼女を性的な目でしか見ていなかった。あわよくばセックスをして、それで何もかも終わりになってしまえばいいと思っていた。別に性欲に飢えていた訳ではないけれど、何かしらのついでの行事として行えるセックスなら、俺が断る理由もない。俺から求める訳ではなく、あくまでそういった雰囲気になったらの話でしかない。

 結果として、俺は三枝千奈美という女を抱いてはいない。あの後、俺らは一緒に食堂で昼食を摂りながら、幾つかの事柄を話したように思う。しかしそれらは何一つ思い出せそうになかったし、思い出す程のことでもないと思えた。つまりはどうでもいいことしか話していないのだけど、(どうでもいいこと)という言葉さえも無駄だと思える程に、中身の伴っていないことばかりだったと思う。

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