2017年6月の記事一覧
『短編小説』第11回 少なくとも俺はそのとき /全17回
パソコンの画面に映し出される、デフォルメされた姿、形、輪郭、表情は、決して実写では表現ならないものだった。いくら頬を赤くしようが、表情を豊かにしようが、やっぱりそこに人間の温かみなんてこれっぽっちも感じられない。平面上に映る、表面なだけの女の子。奥行きのない薄っぺらい女の子。人間のいらないとされる無駄を省き、良いところを更に、人の願望に合うように作られた偽物。それなのに俺はそんな薄っぺらい女の子
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こんな話を元同僚であるやつにするつもりはない。それでもやつは俺にやたらと聞いてきた。きっとやつが聞きたいのはその彼女とどうして別れたのかではなく、俺が会社を辞めたことと何か関係があるんじゃないかと思っているからなのだろう。やつは、俺が何の相談もなしに会社を辞めたことを相当根に持っているように見えた。もちろん相談する義務なんてなかったが、同僚として、それなりに仲は良かったんじゃないかと