映画『オッペンハイマー』レビュー:クリストファー・ノーランが描く原爆の父、その天才と苦悩【Amazon Prime Video レンタル】
クリストファー・ノーラン監督が描いた『オッペンハイマー』は、原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と称された物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材にした作品です。ノーランならではの緻密な構成が光り、観客を圧倒する180分の長編映画は、時系列が絡み合いながら進行し、深いテーマに迫ります。
Amazon Prime Videoでレンタル開始(高画質:500円)されました。これを機に振り返りたいと思います。これは大好きなノーラン作品のひとつです。劇場で観た時は衝撃的で、終わっても立ち上がれませんでした。自宅でも絶対にまた観たかった作品です。
Don't think. FEEL.
ノーラン作品全体に言えることですが、この作品もその複雑さの魅力があります。時系列が複数あり、登場人物も異様に多いのですが、説明の描写はないままどんどん進みます。しかし、ノーランの作品は例え理解していなくても楽しめる、不思議な完成度があります。彼の手による物語は、まるでパズルのように細かく組み立てられており、最終的に美しい全体像に感動する瞬間が訪れます。
時系列とテーマ
『オッペンハイマー』は、時間を操るノーランの独自の手法が光ります。異なる時期の出来事が交差しながら語られるため、初見では混乱することもありますが、その仕組みが映画全体の魅力を引き立てます。結果的に、知的に刺激される感覚がありながらも、楽しさを失わないのがこの作品の特徴でもあります。
日本人としての視点
『オッペンハイマー』を観る日本人には、他国にはない特別な感情があります。唯一の被爆国である日本は、広島と長崎の記憶が深く刻まれており、そのため原爆開発に携わった科学者たちの物語に複雑な思いを抱くのは自然なことです。投下された側の視点に立つ日本人にとって、この映画はどこか距離を感じる部分もあります。
ノーラン監督はオッペンハイマーの内面、特に彼の葛藤や罪悪感を描いていますが、私たちが抱く感情とは異なるものです。それでも、彼の苦悩に触れることで、開発者側の視点にも一定の理解や共感を得ることができるかもしれません。被害を直接描くシーンは少ないものの、科学者の責任や倫理的な問題に焦点を当てたことで、私たち日本人もまたこの歴史を新たな角度から考える機会を得られます。
この作品は、過去を振り返るだけでなく、未来に向けた対話を促す重要な映画として価値があります。
日本で公開されるかどうか心配されていたが、公開後には賛否の中でも高い評価を得た。
音楽と演技
音楽を担当したルドウィグ・ゴランソンのサウンドトラックは、重厚かつ緊迫感を持たせ、物語の感情を引き出しています。また、主演のキリアン・マーフィをはじめ、ロバート・ダウニー・Jr.やエミリー・ブラントといった豪華キャストの演技が、作品全体にリアリティを与えています。特にマーフィの苦悩に満ちた表情が、観客の心を揺さぶります。
技術と倫理の問い
『オッペンハイマー』は、単なる歴史映画にとどまらず、人類の技術進歩が引き起こす倫理的問題を鋭く問いかけます。特に原爆の開発という極端な例を通じて、科学がどのように未来に影響を与えるかを描いています。この映画は、「進歩」が常にポジティブな結果をもたらすわけではなく、時に「破壊」を生み出すことがあるという現実を浮き彫りにしています。当初、「科学には罪がない」という意見だった科学者のオッペンハイマーは、「科学者は罪を知った」と考えが変わるようになります。
ノーラン監督は、この作品を通じて人類の責任についても深く掘り下げています。人類最大の天才科学者のオッペンハイマーが抱えた葛藤や罪悪感は、科学がただの理論ではなく、現実の人々に直接的な影響を与えるという重みを観客に感じさせます。ノーランはこの作品を通じて、人類の責任や、過去と未来に関する哲学的な問いを観客に投げかけ、我々の好奇心をかき立てる内容に仕上げています。
アカデミー賞と公開情報
『オッペンハイマー』は、第96回アカデミー賞で13部門にノミネートされ、作品賞や主演男優賞(キリアン・マーフィ)を含む7部門で受賞しました。2023年製作、180分、R15+指定。日本劇場公開は2024年3月29日。
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