「ホープ」第4話 #ジャンププラス原作大賞#連載部門 応募作品

その昔、神は3人の人類を創造した。
3人は500年という時を与えられ、共に力を合わせて文明を築いていった。
しかし、ある日仲違いした2人が共に手を上げてしまった。
これに怒った神は2人に罰を与えた。
仲違いの原因を作った1人には寿命を100年として短命の苦痛を与えた。相手となった1人には寿命を無くし永遠に死ねない苦痛を与えた。
残った1人は変わらず500年寿命が与えられこの世界を回す中心となった。
罰を与えられた2人は怒った。
中でも100年の寿命を与えられしものは己の人生の短さに憤慨した。
そして、永遠の命を持つものへその怒りの矛先を向けた。
500年の寿命を与えられしものは間に入り仲裁を試みたが遂には3人は互いにいがみ合う関係となってしまった。
そんな3人を見兼ねた神は希望の光を産み落とした。
神はこの光にホープと名ずけた。
ホープはたちまちいがみ合いを解決してしまった。
その方法は誰も、神さえも知らないという。
かくして世界に平和が訪れた。

リリィ「…っていうのがホープ伝説のお話。」
ミュート「へぇ、これってフレンが説明してくれた長命族とか不死族の事だよな?」
フレン「うん、そうなんだけど、僕が知ってる伝承とはちょっと違う部分があるね」
リリィ「そうなの?」
フレン「僕が聞いた話では神の罰は500年の寿命と永遠に死ねない苦痛で、100年の寿命は最も人生を豊かに過ごすための祝福だとされてたんだ」
リリィ「へぇ、なんか不思議な話ね。種族によって受け継がれてる伝説はちょっと違うのかしらね」
フレン「そうかもしれないね。きっとみんな都合のいいように伝承を受け取ったんだよ」
そこにカラーがやって来た
カラー「何の話?」
リリィ「ホープ伝説の話」
カラー「ああ、ホープ様が世界を救ってくれるってやつね。私はあんまり信じてないんだけど笑」
リリィ「相変わらずね」
カラー「だって、自分達を救えるのは自分達しかいないじゃない!神様やホープ様に縋るくらいなら自分で未来を掴まなきゃ」
リリィ「ほんとあんたには感服だわ。そういえば…私達とかジニアがこうして仲良くしていられるのもあんたのおかげだったわね」

これはジニアが孤児院にやってきた時の話。
ハイドランジア「皆さん。今日は新しい子を紹介します。ほら、ジニアおいで。」
ジニアはハイドランジアの後ろに隠れていた。
ハイドランジア「ほらご挨拶、できる?」
ジニア「チッ」
ジニアは舌打ちをして下を向いていた。
ハイドランジアは困った顔をしている。
孤児院のみんなも冷たい視線を送っていた。
リリィ「ねぇ、カラーあの子ちょっと怖いね。」
カラー「…」
数日がたってもジニアは孤児院に馴染めずにいた。
いや、正確には馴染もうとしなかった。
しかしそんなジニアに近付く一人の少女がいた。
彼女は名前をカラーと言った。
カラー「ジニアくん!今日も一人?何してるの?私はねぇお姉ちゃんとお買い物行ってきたんだ!」
ジニア「…」
カラーが必死に話しかけるが、ジニアは一向に心を開かない。
カラー「なんで話してくれないの〜!ねぇ!みんなとお友達になろ?」
ジニア「…チッ」
相変わらず舌打ちをして下を向いている。

リリィ「カラーもいつまで続けてるの?私あの子怖いし嫌いだよ」
カラー「怖くないよ!むしろあの子が怖がってるんだよ。」
リリィ「怖がってる?」
カラー「そう、怖がってる。何かに怯えてるんだきっと。」
リリィ「怯えてる…何に?」
カラー「さぁね。それは私もわかんないけど」
相変わらず心を開かないジニアに話しかけるカラーの光景が数日続いたある日。
カラー「ジニアくん!今日も1人なの?今日はお姉ちゃんと話してたんだけどホープ様が世界を救ってくれるー!とか言っちゃって話聞かないの」
その時、今まで無関心だったジニアが少し反応したようだった。
カラー「みんなの辛い状況も全部ホープ様が救ってくれるんだって。他のみんなもホープ様、ホープ様って私はイマイチよくわかんな…」
ジニア「うるさい!!!」
ジニアはカラーの話を遮り大声を上げた。
ジニア「おれの前でその名前を出すな…」
ジニアはどこかへ行ってしまった。
影から見ていたリリィが出てきた。
リリィ「ねぇ、ほんともう止めなって…わたしカラーが心配。あんな大声荒らげて怒ったら何されるか分からないよ?」
カラー「…」
カラーは黙っていた。
カラー「違うよお姉ちゃん。」
カラーはそれだけ残してジニアの方へ駆け出して行った。

ジニアは体育座りで頭を抱えていた。
カラーがそっと近づく。
ジニア「チッ…なんだよ」
カラー「ねぇ。ホープが怖い…じゃないよね?」
ジニア「あ?」
カラー「何があったかは知らないけどさ、ホープ様とか言って信じきってる皆が怖いんだよね」
ジニア「…」
カラー「私も同じだよ。ホープ様が何でもかんでも解決してくれる?そんなわけないじゃんね。」
ジニア「…」
カラー「私が信じてるのは私だけ。」
ジニアがカラーの方に目をやった。
カラー「自分を変えられるのも、自分を守れるのも、自分を生かすのも殺すのも、自分だけ。そうでしょ?」
するとジニアがぽつりぽつりと話し始めた。
ジニア「家族がシャドウ達に殺された。ホープを信仰してて、何があってもホープ様が救ってくれるからってシャドウに刃向かってそれで死んだ。バカだ。でも…おれも信じてた。」
ジニアは顔を上げた。
ジニア「おれも一緒だった。たまたま助かっただけで本当はおれも死んでておかしくなかった。最後までホープを信じて、自分を信じる事を知らないで死んでたかもしれない。そんな自分が嫌いになった。そして今は自分だけを信じることにした。自分だけを信じて自分だけの選択で生きていく。だから他人はいらない。」
カラー「なるほど、それで誰とも喋らないと?」
ジニア「他人なんて居ても意味が無い。仲良くなったって哀しみが増えるだけだし。自分を弱くする。だから、もう誰ともつるまない。」
ジニアはどこか寂しげだ。
カラー「私もね、私を信じてるよ!でも…お姉ちゃんも信じてる。お姉ちゃんはホープ様を信じてるけどねぇ〜えへへ。」
カラーはちょっと困ったような声を出した後、真面目な顔になった。
カラー「自分を信じることは一番大事な事だよ。だから君は間違ってない。でもね。他人を信じることも大事だよ。他人を信じることは自分を弱くしたりなんかしない。むしろ強くするんだ。だってその人の事を守らなきゃって思えるでしょ?」
ジニアはカラーの顔を見つめていた。
カラー「人を信じることは難しいよ。自分を信じることより難しい。だって人の頭の中なんて分かんないじゃん?本当に私の事を信じてくれてるんだろうか?もしかして本当は嫌われてるんじゃないか?そんなことを考えてしまう。でも、だから私は信じるの。信じたらね、きっと相手に伝わる。私はそういうもんだと思ってる。」
ジニア「そんな簡単なもんじゃ…」
ジニアはぽつりと呟く。
カラー「そう簡単じゃない。でも人生ってそんなもんじゃない?生きるのが簡単過ぎたら、私たち今頃息をするのも忘れて死んじゃってるかもしれないよ?生きるのが難しいからこそ必死こいて命を繋ぐの。」
ジニア「命を繋ぐ…でも、おれの家族は…」
カラー「あんたの家族はあんたっていう命を繋いだんじゃない?それは紛れもなくあんたを信じてたからだと思うよ。」
ジニア「おれを…信じてた…?」
カラー「そう。ホープ様はもちろんそうだけどさ、それ以上にあんたを信じてた。だからあんたは助かった。そう考えたらダメ?」
ジニア「…」
ジニアは考え込んでいる。
カラー「あんたの家族はあんたを信じてあんたの命を繋いだんだよ。」

ジニアはシャドウに襲われた時の事を考えていた。
崩れて燃え盛る家の中にジニアの家族はいた。
エンビー(ジニア父)「ジニア!大丈夫かジニア!」
リネアリス(ジニア母)「ああ、ホープ様。どうかこの子だけは…」
2人はジニアを金庫の中に隠すことにした。
エンビー「ジニア、お前はここにいなさい。ここなら多少熱いだろうが奴には見つからない。」
リネアリス「大丈夫よ。ホープ様がきっと助けてくれるから。安心して。大丈夫。」
ジニア「…でも…お父さんとお母さんは…?」
エンビー「大丈夫。父さん達もホープ様が助けてくれる。な?そうだろ?」
リネアリス「これ。御守りとして渡しておくわ。」
リネアリスはジニアに首飾りを渡した。
金庫の扉が閉められる。
金庫の外から微かな声が漏れ聞こえる。
リネアリス「ああどうか、この子だけはこの子だけは生かして下さい。ホープ様でも何でもいい、この子だけは…」
エンビー「リネ。おれ達の子だ。きっと大丈夫。いや、絶対大丈夫。"信じよう"」

ジニアの目からは涙が伝っていた。
ジニア「そうか、あの時2人は…おれを信じてたのか。母さんもホープ様って喚いていたけど結局はおれの為に…」
カラー「親っていうのはそういうもんだよ。我が子を信じない親なんていないよ。」
ジニアはすっかりしおらしくなっていた。
カラー「ね?人を信じることも悪くないでしょ?私の事信じてみる気になった?」
涙を拭きながら答えるジニア。
ジニア「いや、そんな急に言われても…」
カラー「大丈夫だって、ほら行くよ!」
カラーはジニアの手を引っ張ってみんなの方へ向かっていった。
影からはリリィが2人を覗いていた。

カラー「そんな事もあったね〜…ってあんときお姉ちゃん見てたの!?」
リリィ「いやぁつい気になっちゃってね…えへへ…」
カラー「もう。まあいいけど。」
カラーは少し不貞腐れた様子だ。
フレン「へぇ、それで今は3人仲良しなんだね」
リリィ「仲良しというか、ジニアなんてほらあの通り村の中心になっちゃってねぇ。ちょっと寂しいというかなんというか」
ジニアは料理を囲むみんなに指示を出している。
リリィ「ちょっと遠くに行っちゃった気がしてね…」
ミュート「そういやお前ジニアのことs…もがもがもが」
フレンが急いでミュートの口を塞ぐ
カラー「え、何?」
フレン「あはは、なんでも無いなんでも無い…」
カラー「ふぅん」
フレンは小声でミュートを叱る。
フレン「もう、ミュートはもうちょっと常識を知った方が良いよ!」
そこにジニアがやってきた。
ジニア「なんだ?おれの話しか?」
フレン「あ、いや、その」
フレンがどもる。
リリィ「ジニアは頼りになるな〜ってはなし!」
リリィはフレンにウィンクする。
フレンも安心したようだ
戦闘に向けた安息の時はその後もしばらく続いた…

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