小さいおじさん〜その3〜
ギャンブラー − スロット=究極の暇人
あれだけ毎日通っていたパチンコ屋に行かなくなるとびっくりするくらいの時間が空いた。
"暇"
本当にそう感じた。
毎晩パチンコ屋へ行ってデータを取ることもなければ
夜中から並ぶこともなく
パチンコ雑誌をみて勉強する時間も無くなれば
今日の利益計算をすることもない。
やる事がない。
やりたい事もない。
時間だけが流れていく。そこでまた感じる事。
"俺、今暇人だ。"
2週間くらい本当に暇だった。
フリーターはまだアルバイトできるからいい。
ニートもまだ自分の好きなことに没頭出来てるからいい。
僕のこの2週間は本当に究極の暇人だった。
"何して時間を潰そう?"
1日の中で一番考えてた事がそれだ。
そして、
”あれ?俺、自分の趣味がない。”
そう気づいた。
ギャンブルも仕事のようで趣味だった。
やらなくても時間があればお店に行って台を見ていた。
今思えば完全に好きの究極系の趣味だった。
パチンコ屋がなくなっただけで趣味がなくなる自分。。。
"オーマイガー!!!"
って叫びたくなるくらい虚しかった。
さらに1週間ほど過ぎる。もう公認の仕事になるんじゃないか?というくらいの自宅警備と言う名の暇人を全うしていた。
そんな時、メールが届いた。
"今日空いてる?都合が合うなら飯行かへん?"
小さいおじさんからだった。
イラッとした。
もう暇すぎて何したらいいかも分からなくて暇人と化してる事を見抜いてのメールだった。
"時間なら本当に有り余るくらいあるので何時でもいいですよ!"
そう気持ちをぶつけて返してやった。
"ほんなら21時半にこの店で集合で"
時計を見たらまだ13時。
暇って言ってんだからもっと早くしてよ!まだ9時間もあるじゃん!!・・暇だ。。。
もう半日、自宅警備をすることにした。
キンキンに冷えたおしぼり
小さいおじさん「おっ!久しぶりやん!どうあれから?あの決断でスカッとしたか?」
夜、待ち合わせのお店に着くとやっぱりもう先に席に座ってジンジャエールを飲んでいた小さいおじさん。
ぼく「お疲れ様です。いやなんていうか、暇っす。マジで。それ以外に例えようがないくらい暇っす。」
そう返して、メニューをひらいてパラパラとめくる。
小さいおじさん「ええやん!お前いま仕事に追われる経営者が欲しいと思うもん手にしてるやん!よくいるんやて、いまはお金よりも時間がほしいって呟いてる経営者」
"嫌みかよ。。"
心の中でそう思った。
店員さん「遅くなってすいません!ご注文はお決まりですか?!」
キンキンに冷えたおしぼりとお水を出してくれる店員さん。
ぼく「シーザーサラダとベーコン串下さい。」
今日は自分でしっかりとメニューから食べたいものを選んだ。
小さいおじさん「出来るようになってるやん。成長してるな〜嬉しいわほんまに。」
小さいおじさんは一人でなんだか感慨深くなってる。
こっちは暇でしょうがなくなって困ってるのに。。。
小さいおじさん「いや〜時間があるって幸せやでほんまに。みーんなな、いつも何かに追われてるやん?あれをやらなければいけない、これをこなさなければいけないって。いつも時間に支配されてるやん。でも、いまは晴れて自由の身やん。」
な、なんていうポジティブな考え方をするんだ!!!
小さいおじさん「おれも人に会うのが仕事みたいなもんやからさ、企業の経営者から大学生まで幅広く会うわけよ。んで時間に追われてる人はみんなこう言うわな。
"時間があったらやりたい事ができる。時間があればあれが勉強できる。"
時間がほしいんやって。とにかく時間がほしいって思ってる人がめっちゃおんねんで。
でも、お前はよかったやん!
そんなみんなのほしいと思ってるもん手にしてる気分はどんなん?」
ぼく「・・・暇です。暇すぎて本当に苦痛です。何にも楽しい事がないし、やりたいこともないんで。」
小さいおじさん「ヌァハハハハハ!!」
爆笑し出す小さいおじさん。
小さいおじさん「お前が暇で誰かに迷惑かけてるか?かけてへんよな?てことは、ほんまに今自分のために時間使えんねんで?どっか旅に行ってもええし、なんか勉強してもええし、また1日中寝ててもええ。最強やん!好きなことして、誰にも迷惑かけへんなんて。」
確かにそうだけど、何したらいいかわかんないよ。
本当に暇人すぎて考えることもめんどくさくなっていた。
するとそこへ店員さんが来た。
店員さん「おまたせしました!シーザーサラダです!これよかったらサラダにのせてみてください!自家製のカリカリのベーコンなんですけど、相性抜群なので!サービスしときます!」
"おぉー!うまそう!"
そう思って写真を撮ろうとしたら、奥から箸が伸びてきた。
小さいおじさん「何これ。うまっ。食べてみ!」
小さいおじさんが呟く。
イライラが募る。
空腹感が、毎日のストレスをさらに強くする。
こんなにイライラしていただろうか?
こんなに毎日が平凡だっただろうか?
シーザーサラダを見てなんだが、つい数週間前が懐かしく思えた。
シーザーサラダを食べ始めた頃、また小さいおじさんが話し出した。
小さいおじさん「暇ってなんで暇って感じるんやろうな?なんでギャンブラー時代は暇を感じなかったんやろうな?どっちが幸せなんやろうな?」
・・・(無言)
小さいおじさん「ほんまにないもんねだりよな。人間なんて。自分にないもんばかりに目がいって、無い物に感情が支配されて、いつも不安になってんねやで。俺なんかお前と飯が食えて、この焼き鳥とジンジャエールがあるだけで今日も生きてて良かったって思えてるわほんまに。めっちゃ幸せやねんで。今この時間に、なんの焦りも不安も後悔もない。むしろ最高やん。」
そんな、きれいごとばっか言うなよ。
この日の僕は本当にひねくれていた。
自分の存在価値がなくなったと思って過ごしていた3週間。自分なんて社会のゴミだとまで思っていた。
小さいおじさん「あんな、多分な、多分だけど、違ってたらゴメンなんやけど、お前さ、いつも自分のことだけ考えてへん?自分が得たいものとか、なりたいものとか、人からの見られかたとか考えてへん?得か損とか世の中、自分しか生きてへんレベルで。
ちゃうで?ほんまにそれ。
お前な、自分の中に喜び作るのも大切だけど外に向かってもっと喜び作ってったれよ。
自分が楽しくないのは社会のせいちゃう。
お前の心の問題やん。」
さっきまでの大笑いとは違い、急に真っ直ぐ目を見て、大好きなはずのジンジャエールすらも置いてまじめに話し出す。
人を笑顔にしてますか?
小さいおじさん「お前な、みんながいつでもお前を喜ばせてくれるなんて思うなよ?他の人を喜ばせてへんやつに返ってくるもんなんてあるわけないやろ?
さっきの店員さん見た?
お客さんが席について、暑い中来てくれたからありがとうって気持ちでキンキンに冷えたおしぼりとお水を出してくれて、シーザーサラダにこれのせたら美味しいのでサービスですなんてあの人らにとったらなんも関係あらへんからな?全部お前のこと思ってしてくれてんねんで?しかも給料も変わらないから無償で。
もちろんやってんのは店の経営者やけどあの子らみんなその経営者の意図をわかってるわな。なんていうかさ、こんな事が大切なんちゃうの?」
確かに、言われてみれば本当に冷凍庫で凍らせる手前くらいのキンキンに冷えたおしぼりもお水もあれだけでなんだが嬉しかった。
シーザーサラダのサービスも、よく考えてみれば確かに凄いことだ。
小さいおじさん「サプライズやねんてなんでも。
サービスの向上だとか、差別化しろだとか、付加価値をつけろなんていうけど、どこまでいっても人のお悩み解決と、人へのサプライズやねんて。
思ってもいなかったこと、あったら嬉しい、それをしっかり先に感じて渡してあげられるこのサプライズやねんて。
それ考え出したらそりゃもうキリないで。考えても考えても出てくんねんで?しかもな、これに関しては全く疲れへん。むしろ元気になるわ!」
サプライズ。。
そんなことこれっぽっちも日常で考えなかった。考えるといったら友達の誕生日くらいだったかもしれない。
毎日にサプライズ。
確かにすごいかもしれない。
でも、それと同じくらいそんなことしてたら疲れるし意味ないよ。
そう思ってしまった。
小さいおじさん「いま、何がしたいか具体的にわかんないんやろ?職業暇人なんやろ?なら転職な。
職業→サプライザー
趣味→サプライズ
これでいこ。」
小さいおじさんが何やら僕の職業を勝手に変えた。
サプライズをしたこともないのに職業サプライザー。趣味サプライズ。
小さいおじさん「サプライズってな、めちゃええねん。いっつも人をハッピーにすること、この人をどうやって笑顔にしたろうかなって考えれるねん。寝れへんで。
やっとったらわかるけど自分以外の誰かのこと考えてるのにな、めちゃくちゃ自分の中で変わってくことばっかりやねん。やってみ。な?決定!
明日からバンバンやったろうぜ!サプライズ!いや〜ほんま世の中、まじで素敵やん。」
勝手に世界平和が訪れたかのような喜び方をする小さいおじさん。
ドラクエで言えば、戦士として自分の街を出た僕。
が、次の街に着くまでに早くも職業チェンジを2回もしている。
戦士→暇人→サプライザー。
僕はこの先のモンスターをこんなことで倒せるのだろうか?世界を平和にする事が出来るのだろうか?
RPGならすぐに電源を消してリセットしてしまうような展開。 でもこれはリアルな人生。リセットなんてできない。
こうして僕はサプライザーに転職を果たした。
それからしばらく、サプライズが何かもわからない僕はめちゃくちゃ苦労した。
芸人さんのように巧みな話術で人をhappyにすることもできなければ、
マジシャンのように一瞬で人に感動もさせられない。
サプライズって、、、、なんなんだ?!
本当にそう思った。
けれどある時、ふとわかったことがある。それは、
"しなければという気持ちは何1つ楽しくさせない。”
ということ。
それどころか人と会うのも、どこかへ行くのも気を使って疲れるだけ。
これってサプライズじゃない。そう思った。
本当に一日中いろんな喜ばれることを考えて、サプライズ帳も作っていた。
でもやっている感が強すぎて自然な自分がいなくなっていた。
もちろん、自然にできるレベルまで、習慣化するまでやればいいのだろうけど自分の中の違和感が消えなかった。
だから僕は自分で作った手帳のサプライズはやめてみた。
その代わり、自分の好きなものを常に持ってるだけにしてみた。
それはお菓子。しかもグミ。
これさえあれば僕はいつでも幸せになってしまうくらい好きなもの。
自分の好きなものなら、本当に心から人に勧められるし喜んでもらえる自信があった。
人と会うたびに、会話の中で、「食べます?」、「よかったらこれどうぞ」って渡すだけでありがとう!とか美味しい!とかその瞬間少しhappyと共感が作れた。
それを続ける中で、急に頭の中に浮かんだこと。
「サプライズという言葉がぴったりな人がいた!!!」
それは、母親だった。
今思えば僕の母親にはすごい点があった。
それは、僕の友達全員の誕生日を覚えていること。
しかも、一回しかあったことない人でも全員覚えている。
そして、誕生日にはメールを送ったり、プレゼントを送っていた。
友達は僕に会うと、この間、お母さんからメールもらったよ!プレゼント送ってくれたよありがとう!などなぜか母親の話になることが多かった。
母はこんなことを話してくれていた。
”母親になってからね、人が生まれた日ってめちゃくちゃ特別な日じゃんって気づいた。そんな日に、もし一人でいたり、何か嫌なことがあって落ち込んでいたり、祝ってくれる人がいないなんて寂しすぎじゃん?”
だから母親はその人にとって特別な日を純粋にお祝いしたくて覚えているらしい。
これ以上のサプライズはないと思った。
僕はその日、自分の知る限りの人の誕生日を携帯のカレンダーに記入した。
よく、サプライズをして喜ばせなさいと自己啓発本には書いてある。
”人を喜ばせることは、先取りすること”とも。
もちろんそれはすごく大切だと、毎日サプライズを考えてやり続けてわかった。
喜んでもらえることは嬉しいし、ありがとうという言葉が増えて自分も嬉しい。
ないよりあったほうがいいし、しないよりやったほうがいい。
でも誰でも、自分を作らずできることがあった。
それは、人の誕生日を心からお祝いするということ。
返事が返ってこないこともあった。
けど、だからってなんてことない。
だって、サプライズって見返りを求めてすることじゃないから。
”誕生日おめでとう!生まれてきてくれて出会ってくれてありがとう。”
その気持ちを自分のことを忘れてしまっている人にも、心からおめでとうを伝えられることが一番のサプライズだと母親から学んだ。
ちなみに、僕は一年のほとんどを海外で過ごしている。
けれど、僕の実家にはよく僕の友達が母親に会いにやってくる。
僕のいない時にご飯を食べたりしてる人もいる。
友達何十人も集まって僕の母親の誕生日会をやってしまってたりする。
サプライズ。それを突き詰めると、それはつまり人の心に残る生き方を心がけるということ。
そう思えた。
3、今日から趣味はサプライズ。
サプライザー、レベル15くらいに到達。
つづく、、、