光と闇
不意に立ち上がる夢現の景色。
深い、深い闇の向こうに、他人事のように浮かび上がる一点の光が視界に鋭く突き刺さる。人らなざる異形のモノ達の姿さえ透かし見えるかと思う程、現実離れしたその景色の中に、彼は自らの後ろ姿を見る。
理論的にはそんな事は不可能だ。しかし、彼の視界にあるその人物の姿は確かに彼なのだ。目の前のモノを有り得ないと否定するのは容易いことだ。しかし、彼の意識は自らの視界にある人物が己であると認めている。
不意に悪感が背中を駆け上がった。背骨を撫で上げるように走り抜けた悪感に、彼は鋭く息を飲んだ。いや、ほんの一瞬呼吸の仕方を忘れたのかもしれない。
「……………認め、ない。こんな、モノ…は認めない……」
うわ言のように唇から言葉が伝い落ちる。
その声はしかし、これほどまでに広い空間の中にあって、響く事はなかった。音の全てが周囲に吸いとられてしまったかのように、鼓膜が圧迫される。不意に覚えた息苦しさに、肺の奥に痛みが走る。
小さな子供がむずかるように、彼は視線を目の前の景色に張り付けたまま緩く首を振った。
「認めない……ッッッ!!」
肺の奥に走る痛みに眉間に深い皺を刻みながら、彼は精一杯の言葉を空間に叩き付けた。そして、意識に入る全てのモノを拒絶するように、きつく目を閉じる。そうしたところで、現状の何が変わるわけでもないというのに。
それでも彼は、そうせざるを得なかったのだ。自らが自らである為に。
やがて。彼の意識は周囲の深い闇に吸い込まれていった。その脳裏に、最後まで焼き付いて離れなかった夢現の光を共に連れて……。