夏の抜け殻
夏の抜け殻が落ちていた。白く陽に焼かれたアスファルトに、ひっそりと動きを止めて。
なにをするでもなく僕はそれを眺めていた。
「あぁ………」
思わず零れた言葉の欠片は、なんの感情も浮かんでいなくて。むしろ静寂の中に小さな波紋を起こしただけだった。
(………そういう事なんだね。全ては……)
どこから浮かんできたのか、以前から疑問に思っていた事の幾つかが不思議に納得できてしまう。答えとしてのはっきりした形はなく、けれど疑問のままのようなモヤモヤとした感じはなくなった。
不思議だ………。
ただ、焼かれて温度をもったアスファルトの上に……夏の抜け殻を見付けただけだというのに………。
本当に。不思議だね。
(良いんだよ。君はそのままで………。もう、君の役割は終わったんだからね)
夏の抜け殻を見詰めたまま、僕はそっと胸の内で囁きかけた。
まだ陽は高く、ジリジリとした熱を地上に振り撒いているけど………。
君はもう、役目を終えたんだ。そして多分、僕もね。誰かの中で役目を終えたんだ………。
そろそろ舞台は秋の代弁者に譲ろう。
またいつか。地上に君の遺伝子を持ったモノが現れるまで………。