闇から無数に伸びる腕が手招く。
 おいで、おいで………と。

 狂気を孕んだイタミが全身に麻酔をかけて。
 広がるのは茫漠とした曖昧な感覚。

 どこへ向かうはずだった?
 なにを求めていた?
 欲しかったのはなに?

 記憶までも麻酔をかけられたように、曖昧にぼやけて。
 全ては闇の中。

 求めていたはずのココロは宙に浮き、残ったのは麻痺したイタミ。
 全てが夢なら笑えるだろうに。
 笑い飛ばせるだろうに。

 白く痩せた腕に爪を立てれば、あふれたのは朱。
 あふれた不思議に心地よい熱は、腕を伝う間にもそれを失って。
 凍える雫は現実を思い知らせる。

 闇から伸びる腕を取れば、その先にはなにがあるのだろう?
 狂気?
 イタミ?
 虚無?

 まとまらない思考には恐怖もなくて。
 自然に動いた腕がそれを掴んで………。

 不意に暗転した視界に、奇妙な安堵。
 じわりと体から流れ出す恐怖は遠いモノで。
 感情をなくす感覚に僅かな興奮。

 広がる無音の時に意識を委ねれば、安堵の吐息が闇に飲まれていった。

#小説

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