ツキアカリ
風もなく、静かな湖面に映り込むのは満月の冴えた光。冬の冷えた空気に凛と響く月明りは、彼らの足元を無表情に見下ろしていた。
「……なぁ、これからどうすんの?」
まだ幼さを含む男の声が、静かに冷たい空気に白い軌跡を残す。彼の傍らに立つのは、腰までの長い髪を一つに結った女だ。緩い仕種で前髪を掻き上げ、彼を振り返る。
「決めてないんだ。まだ全然頭が働かないんだよね。……やっと、コイツから開放されたばっかりだし」
そう言って女の示した足下には、全ての時を止めた男の骸があった。
「とりあえず、しばらくはなんにもしたくないかな?」
薄い苦笑を浮かべ、女は彼を振り返る。
「なら……俺も一緒に行って良い? 今更元の生活になんて戻れないしさ」
苦笑を滲ませた声で呟き、彼は真っ直ぐに女の目を覗き込んだ。どこまでも真っ直ぐで真摯なその目。そこにある光に幾分面食らった沈黙を挟んだ女は、不意に肩を震わせ笑いだした。
「こんな女と一緒で良いの? いくらこれが『事故』だとしても、他人がそれを必ずしも信じるとは思えないけど?」
僅かな自嘲を含んだ女のその言葉に笑って見せ、彼はそっと手を差し出す。
「勿論。俺はあんたが、良いんだよ!」
言い切った彼の言葉に、いっそ華やかに笑って見せ女は悪戯を含んだ言葉を放り出した。
「なら、私が目を離せなくなるようなステキな男になってね?」
「当然!」
言われなくても遠くないいつか、必ずなるよ。
胸中に呟き、彼は柔らかく女の体を抱き寄せたのだった。