羽根

 貴方のその背に生えた羽根は、なんの為にあるんですか?
 いつだったか、そんな意味合いの問いを投げられたことがあった。
 あれはいつだったか。随分昔のようであり、つい数日前のことのようにも感じられる。
 彼はその時、投げ掛けられた問いの真意が掴めなかった。なにを意味する問いであるか理解できていなかったのだ。それでも彼は、それを投げたその者に頷き返した。
 空を飛ぶ為、だと。
 その答えが、どこにでもある在り来たりでつまらない解答だとわかってはいたが彼はそう答えたのだ。すると彼に問いを投げた者はしばらく沈黙した後、小さく頷き溜め息を一つ落とす。そして無言のまま頷くと何処かへ去って行った。
 その背をぼんやりと見送り彼は考える。先程の問いが指していた羽根とはなにか、どんなものだったのかと。
 猛禽類の持つような力強い羽根か。それとも、日常生活の傍らにいる鳥の持つそれか。はたまた卒業シーズンになると好んで教師達の使う、比喩としてのそれなのか。
 そのどれもが投げ掛けられた問いの指す羽根のようで、しかしけして正解とは思えなかった。 いつまでも思考にこびりついて離れないその問い。下らない、と切り捨てることもできるはずであるのにそれがどうしてもできなかった。
 迷い込んだ思考の袋小路は、いつまでも彼を捕らえて離さないのだった。

#小説

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