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軍隊の兵科(陸軍編)

皆さまこんばんは、弓削彼方です。
今回は軍事学の話として、軍隊の兵科について解説します。
兵科と言うのは、簡単に言えば軍隊内での役割分担と言った所でしょうか。
兵科の解説は非常に長くなりますので、今回の陸軍編の他に「海軍編」「空軍とその他の軍」と言う3回に分けて解説します。

配信のアーカイブでは全部まとめて解説していますので、お時間があればご覧下さい。
陸軍編はアーカイブの最初~26分ぐらいまでの部分です。

今回の解説も、皆さまが歴史でよく耳にする第二次世界大戦前後の話を中心にしていきます。



■旧主力三兵科


・歩兵
軍隊の中で大多数を占めるのが歩兵です。
一般的に想像する、小銃と大きな背嚢を背負って徒歩で移動する兵士が正しくこれです。
かつては「歩兵の頭数=戦力」と言っても過言ではない時期があり、軍隊の戦力の中心と言えば歩兵でした。
・騎兵
馬に乗っている兵士ですね。
騎兵には大きな役割があって、一つはその身軽さを活かした偵察。
もう一つはその機動力を活かした突撃です。
正面から敵を蹴散らす正面突撃や、敵の側面や背後に回っての迂回攻撃など、敵に止めを刺す決定打として使われていました。
・砲兵
俗に言う大砲を扱う兵士です。
馬車で運ぶほどの重い大砲や、重すぎて一度分解して運ばないといけない程の大型砲を取り扱う専門家です。
射程が長い兵器なので、遠くの敵に当てるために測量などの専門知識も必要でした。

ここまでが、かつて軍隊の戦闘力を担っていた主力三兵科です。
上記の説明は第一次世界大戦が終結する頃までのものだと思ってください。
第二次世界大戦になってから、戦車や飛行機が本格的に運用されるようになり、この主力三兵科も変わっていきました。
次からが各兵科の本格的な説明になります。


■新主力三兵科


■歩兵
第二次世界大戦になっても、まだまだ兵士に小銃を持たせた歩兵は軍隊の主力でした。
それは時代が変化しても、まだまだ「数の暴力」が有効だったために、とにかく頭数が重要だったからです。
また、敵に弾を当てられるようになる程度の訓練であれば比較的短期間で終えられるので、徴兵した兵士の訓練を早々に済まし、とにかく頭数が必要な前線にどんどん送れると言う理由もあって、歩兵は第二次世界大戦でも主力を担っていました。
■機械化歩兵
機械化歩兵とは車両(機械)に乗って移動する歩兵のことです。
第二次世界大戦では戦車も主力として登場したため、戦車と同じ速度で移動できる歩兵が必要になりました。
当然通常の歩兵が走って付いて行くには限界があるため、戦車と一緒に行動する歩兵にはトラックや装甲を施した兵員輸送車が割り当てられ、彼らを機械化歩兵と呼ぶようになりました。
現代では通常の歩兵もトラック等で移動するため、戦場でも戦車部隊に随伴できる装甲を備えた兵員輸送車を割り当てられてた部隊を、特に機械化歩兵と呼ぶようです。

■機甲(戦車)
ドイツ軍が戦車を集中運用し始めて生まれたのが、この機甲部隊です。
当初は移動砲台程度の認識だった戦車を、集中して運用することで、騎兵に代わる突撃力として運用されるようになりました。
その厚い装甲と高い火力は、戦場の花形に相応しいものです。
■偵察
戦車に突撃力としての地位を奪われた騎兵は、偵察や伝令として使われるようになりました。
しかしその偵察任務も、いずれ前線では使われなくなった軽戦車にその地位を奪われて行きます。
現在では名前にだけ「〇〇騎兵隊」と付いた戦車部隊に伝統を残すか、観閲式などの一部の儀式に使われる程度の騎兵しかいないようです。

■砲兵
大地次世界大戦までに続き、高い火力を持つ砲兵部隊はなお健在です。
馬車や人力に代わって車両が使えるようになったことにより、火力の高い大型砲を、より早く移動させて使えるようになりました。
射程が伸びることにより、弾が敵に当たっているかを確認する観測の重要性も増しましたが、航空機の登場で空から確認できるようになり、敵からは見えない場所から攻撃すると言う重要性も増しました。
■対戦車
戦場に戦車が数多く登場するようになり、砲兵から派生しました。
戦車は装甲が厚く、それに対抗するには同レベルの戦車を用意する必要がありますが、味方の戦車部隊がいつでも近くに居るとは限りません。
当然歩兵の小銃や迫撃砲程度では、攻撃しても撃破できません。
砲兵の大型砲の火力であれば撃破できますが、機動力のある戦車を長距離から捕えるのは無理があります。
そこで対戦車の切り札として、戦車を専門に狙う対戦車砲部隊が派生しました。
■対空
航空機が本格的に運用されるようになり、また敵の航空機が爆弾や機銃で地上部隊に攻撃を仕掛けるのが本格的になってくると、地上部隊も敵の航空機に攻撃をして撃破・撃退する必要性が出てきました
当然、はるか上空を飛ぶ航空機に攻撃するには高高度まで届く大型の対空砲が必要になり、砲兵から派生した対空砲部隊が運用していました。
本来は航空機を攻撃する対空砲ですが、直に敵戦車を狙って攻撃し、見事撃破することも可能なぐらい強力でした。
これが有名な、対空砲の「水平射撃」です。

以上が、新たに派生したものも含む、歩兵・機甲・砲兵の新主力三兵科です。


■その他の兵科


■工兵
道路の敷設や橋を架ける架橋、防衛拠点の作成である野戦築城などを行います。
また最前線では地雷の撤去や、敵のトーチカ・防衛拠点の破壊・爆破を行います。
地続きであるヨーロッパですと、輸送用の軍用列車を乗り入れるために、鉄道の敷設や軌間の変更なども行っていたようです。

■衛生
上は軍医さん、下は衛生兵で有名な衛生部隊ですね。
実際の治療と同時に、軍隊では致命傷になる伝染病の予防などを担当していました。
また野戦病院などもここの管轄です。

■通信
無線設備の機材の取り扱いや、情報専門の部署がない下位の部隊であれば、簡単な暗号の解読と防諜を担当しています。
まだ無線がなかった時代は、電話線を引くのも担当していました。

■補給(輜重)
輜重と言うのは古い言い方で、現在の補給部隊のことです。
食料・燃料・武器・弾薬の輸送と、配分を担当しています。
比較的前線に出る機会が少ないので軽視されがちですが、もし補給が無ければ3日持てば上等なほど軍隊とは物資の消費が激しい組織です。
決して軽視しないようにしましょう。

■整備
補給は武器を運ぶだけですが、整備は本格的に修理をする部署です。
各兵科は武器の点検と簡単な修理は自分達で行いますが、本格的な兵器の修理はこちらの部署にお願いしなければいけません。

■憲兵
軍隊内の警察で軍人同士の喧嘩から始まり、重大なものはスパイ行為まで取り締まります。
基本的に警察権を行使できるのは軍隊内だけですが、かつての日本軍やフランスの憲兵のように、司法警察(一般の警察官)としての権限も併せ持つ国もあります
戦争映画とか小説で、日本の憲兵が民間人をスパイ容疑や天皇陛下への不敬罪で取り締まれたのはこのためです。

■参謀
一般的な国には存在しない兵科です。
参謀本部で有名なドイツなど極々一部で、参謀は一つの独立した兵科として存在していました。


ここまでが陸軍の兵科の解説です。
必ずしも同じ名称が使われているとは限りませんが、どの国でも概ねこの様な分け方をしています。
また国によって、その国だけの特殊な兵科もあるようです。
現在では「兵科」ではなく、「兵種」と呼ぶ国も多いようです。
これは部署移動の際の妨げにならないように、所属を表すのではなく、現在の職種(任務)を表すと言う意図のようです。
いずれにせよ、大まかにこのように役割分担がなされています。


今回の軍事学講座、軍隊の兵科の陸軍編はここまでにしておきましょう。
次回は海軍編になります。
それではまた、次回の解説でお会い致しましょう。


            おまけの兵科の一覧図

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