正と奇の変化
皆さまこんばんは、弓削彼方です。
今回は「正と奇」の話を、さらに発展させた解説となります。
より深く理解する為に、動画も併せてご覧ください。
兵法で言う正とは「正攻法」のことを指し、奇とは「奇策」のことを指すと言う所までは前回説明しました。
しかし兵法の正と奇は、正だからずっと正、奇だからずっと奇と言う単純なものではありません。
例え話として、常に兵力が不足している小国があるとします。
兵力が少なければ、兵力が多い敵と正面から堂々と戦う正攻法は不利になります。
ですので、この国の基本戦術は「奇策を使って敵の裏をかき、少数の兵で多数の敵軍を翻弄して消耗させ撤退させる」と言うのがメインとなります。
この少数で奇策を使うと言うのは、まさに兵法で言う「奇」となります。
この小国が、何度も何年もこの奇策を基本とした戦術を使い続ければ、いずれ「この小国の戦い方は常に奇策を使う」と先入観や固定概念を相手に与えるようになり、「この小国の正常な戦い方は奇策」と言う風に、本来は奇策である戦い方が、この小国の「正攻法」に変化します。
ある時の戦いで、この小国が「この一戦が国家の明暗を分ける」と考え、他の全てを捨ててでもこの戦いに勝つために国中の兵力をかき集め、侵攻してきた敵に対し、大軍で正面から堂々と圧倒的な火力で制圧して行く正攻法を取ったとしましょう。
他の国であれば正攻法であるこの戦い方も、この小国では今まで取ったことのなかった戦術です。
いつも通り少数の兵力で奇策を使って来ると思い込んでいた敵国の将軍にとっては、完全に裏をかかれた予想外の戦いになります。
誰にでも思い付き、敵も「きっとこう攻めてくるであろう」と言うのが正攻法であれば、敵が予想せず「まさかこんな戦い方をしてくるとは!」となるのが奇策であると説明しました。
今、この小国の取った戦術は、一般的には正攻法に入る部類の戦い方です。
しかし、今まで奇策ばかりを使っていたこの国が、珍しく正攻法を使ったこの一戦に限っては、敵の裏をかいた奇策になります。
つまり、本来は奇である奇策が正に入れ替わり、本来は正である戦い方が奇に入れ替わったのです。
これが正と奇の変化の例となります。
兵法の正を「相手が予想できる範囲のこちらの行動」と言い換えれば、相手が予想しているなら奇策であっても正となり、奇を「相手が予想していなかったこちらの行動」と言い換えれば、それは一般的には正攻法でも奇となるのです。
孫子には「正と奇と言うものはお互いに入れ替わるもので、それには終わりがなく、円環のようにぐるぐると回り続けるものだ」と言っています。
そしてこのように正と奇が入れ替わるからこそ、なおのこと正と奇の組み合わせは無限で極め尽くせるものではないと言われるのです。
この正と奇の話は奥が深く複雑で、また実戦の経験が無ければすぐに理解できるものではありません。
今回の話も、この様な考え方があるのだと言うことを理解して頂ければ十分です。
正と奇に関するお話は、ここで一区切りと致しましょう。
いずれまた機会を見て、正と奇に関するさらに深い部分のお話をします。
それではまた、次回の講義でお会い致しましょう。
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