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戦時国際法

皆さまこんばんは、弓削彼方です。
今回は軍事学の話として、「戦時国際法」について解説します。
戦争とは無残な殺し合いです。
ただし殺し合いにも、最低限のルールと言うものがあります。
その最低限のルールが戦時国際法です。
配信で詳しく説明していますので、時間があればアーカイブをご覧ください。



■戦時国際法とは?

皆さんの生活の中にも、刑法や民法と言う体系だった法律があります。
厳密に言えば、戦時国際法と言う法律はありません
では戦時国際法とは何か?
それは様々な交戦規定や条約が集まったものです。
有名なものを挙げると次の2つです。

・ハーグ陸戦条約
条約が適用される範囲(正規軍とか民兵など)の明記や、降伏拒否の禁止、必要以上に苦痛を与える兵器の使用禁止など、なんとなく聞いたことのある禁止事項は大体この条約に含まれています。

・ジュネーブ条約
捕虜の身分の保障や虐待の禁止、赤十字を付けた医師や看護師の身分保障、人道的支援に関する取り決めは概ねこの条約です。

その他、海で戦う場合の海戦規定、中立国に関する条約など、いくつかの条約をまとめて、戦時国際法と一括りにして呼んでいます。


■戦争のルールの大きな3つの柱

私は皆さまの世界の法律の専門家ではありませんので、一つ一つ法律の詳しい部分まで解説することはできません。
今回は戦時国際法の趣旨を汲み取って、これだけは理解しておくべきと言う、大きな3つの柱についてのみお話します。

●民間人の保護

戦争のルールの中でも一番大事な「民間人を攻撃してはいけません」と言う約束です。
戦争は軍人同士の戦いで、攻撃目標は軍人か軍事施設に限ると言うのが大前提です。
この話をすると、「そうは言っても、いつも戦争では民間人が犠牲になる。このルールの意味はないのでは?」と言う話が出てきます。
しかしこれは間違いで、このルールがあるからこそ、民間人の犠牲は不幸な事故の範疇で済んでいるのです。
もし、「どうせ戦争したら民間人に犠牲出るし、そう言うルールは無しにしよう」などとなったら、公認された民間人の大量虐殺が始まります
皆さまから見たら単なる建前に見える「民間人の犠牲を出さない」と言うルールがあるおかげで、万が一民間人に被害が出た場合は、軍が正式に調査を行って避けられない事故だったのかを確認し、必要な保証の義務を軍や国が背負うのです。
ですので、この民間人の保護と言うルールは、一見無意味に見えても一番必要なルールなのです。

・毒物と生物兵器の禁止

毒物と生物兵器の禁止も大事な取り決めです。
これは2つの意味があります。
1つ目は制御が非常に難しいと言う部分です。
毒物は時間が経てば拡散して無害となりますが、問題は生物兵器です。
病原菌を撒いたその日は敵軍の被害だけで済むかもしれませんが、感染が広がれば味方に、さらに中立国や民間人にまで被害が出ます。
特に民間人への被害は「民間人の保護」にも反しますので、避けなければいけない事態です。
この制御が出来ないと言うことと、民間人にも被害が出る可能性が高いと言うことが問題になります。
2つ目に、毒物や生物兵器は必要以上に苦痛を与える場合が多いので、人道的な観点から使用すべきではないと言う部分です。
皆さまも御存じのサリン等の毒物は非常に苦しみ、仮に死に至らなくても後遺症を残すなど不要な苦痛を与えます。
生物兵器も病気が主なものになりますが、長時間苦しんだ後に死に至りますので、こちらも不要な苦痛を与えていると言えます。
ですので、毒物と生物兵器の使用は許されるべきではないのです。

その中でも一番許されないのは、飲料水や食料を毒物や細菌兵器で汚染することです。
川に毒を流してその町の住民まで無差別に殺すとか、食料を汚染して知らないうちに取り込ませると言う行為は、明確にやってはいけないと決まっています。
最近では放射能と言う危険なものもあるようです。
放射能も、毒物や生物兵器に準じて取り扱われます。

なお、飲料水や食料に関しては、毒物などで汚染するのは禁止ですが、通常の手段で供給を断つのは合法です。
具体的には輸送隊を襲って物資を奪ったり、都市を完全に包囲して補給を断つ、物資に火をかけて使用不能にする等です。

・背任行為の禁止

先に説明した2つも大事ですが、私が武人や軍人として一番大事なルールだと思うのはこれです。
例え敵であっても、お互いに信頼して取り決めた約束を破ってはいけないと言うルールです。
例えば「武器を捨てて降伏したら命は助ける」と言って降伏させておいて、武器を捨てて油断した敵を襲うとかです。
また赤十字の不正使用や、国旗を不正に使用して中立国だと誤認させておいて、急に襲い掛かると言うのも背任行為に当たります。
戦争とは確かに殺し合いですが、最低限の信頼と言うものがなければ、停戦も降伏も何も進まなくなります。
明文化されているものではりませんが、騎士道精神とか武士道精神を守りましょうと言うことです。
ですので、この背任行為の禁止と言うのは重要なのです。

また少し横道に逸れますが、背任行為に当たらない奇計は合法です。
敵の裏をかいて攻撃する奇襲や、こちらの兵力を勘違いさせる偽兵がこれに当たります。
これは相手との約束を破ったわけではなく、相手の誤認や勘違いを誘導した結果の成果ですので、通常の戦術として認められます。

■まとめ

以上が戦時国際法の中でも特に重要な、大きな3本の柱です。
「民間人の保護」「毒物と生物兵器の禁止」「背任行為の禁止」に留意すれば、戦時国際法の趣旨を踏まえた行動が出来ると思います。

戦争とは多数の人が関り、世界中を巻き込む狂気です。
だからこそ、殺し合いの中にも最低限のルールが必要なのです。
戦争の狂気と言う暗闇から抜け出すために、人間としてこれだけはやってはいけないと言う道筋を示して光へと導いてくれるのが、この戦時国際法なのです。
私はその中でも「背任行為の禁止」と言う、騎士道・武士道的な考えを大事にしたいなと思っています。


今回の解説はここまでです。
皆さまに戦時国際法の趣旨だけでも理解して貰えたなら、少しだけ世の中が平和になることでしょう。
それではまた、次回のお話でお会い致しましょう。

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※参考動画

兵法講座で「正と奇」について解説した、奇計に関する参考動画です。
(所要時間4分の動画)


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