【君もまた、青春】第十九話「私は、私の中の正しさに悩んでいる」
第十九話「私は、私の中の正しさに悩んでいる」
放課のチャイムが鳴ると、私は誰の顔色も窺うことをせず嵐の前の教室を後にした。私には実行委員としてやらなきゃいけないことがあるんだ。みんなはクラスの出し物だけなんだし、自分たちで頑張ってよね。
こんな宇宙からしたら本当にくだらないことばかりを気にしてしまう私は、つくづく小さな人間だなんて実感する。
ふとそんなことを考えていた。
「橋向さん、待って!」
後ろから由菜ちゃんが小走りでやってきた。
「よっす由菜ちゃん。ちょうど一緒に終わったぐらいだね」
「うん、今日でなんとか予算の目処がつくように頑張ろうね!」
「もちろん! やるよ副隊長」
「は! 大隊長!」
由菜ちゃんはカバンを持っていないほうの手で小さく敬礼のポーズをとっていた。私が男だったらこんな可愛い彼女がほしい~。私の些細なにやけ顔に彼女は小首をかしげていた。
「あら、橋向さん。久しぶりじゃない? 最近めっきり姿を見せないから心配してたのよ?」
生徒会室に入ると、またいつもの堂園会長の姿があった。
「はいそうですね。昨日ぶりです」
そう返事をすると私は早速作業に取り掛かった。昨日の時点で一年生はやれるだけやったから、今日はなんとか二年生を攻略じゃ。もし余力があったらちょっと三年生も……。
「橋向さん、あとどれくらいで予算は確保できそうかしら?」
堂園先輩がパソコンをカタカタと打ち鳴らしながら、私に声をかけてきた。
「昨日一年生が終わったので、あと半分ちょいくらいですかね?」
「あら、なかなかいい仕事をするではないの。その調子なら明日には何とかなりそうね。機械の件も三年生で何とかなりそうだわ」
「それはどうもありがとうございます。先輩方もお疲れ様です」
「いいえ、この程度の仕事、世界征服に比べたら塵レベルよ。そんなことより、その仕事が済んだら一旦クラスの準備を手伝ってきなさい。残りは私たち下請けがなんとかするから」
「……それは悪いですよ、先輩方に押し付けるなんて」
「あなた、私たちの仕事の腕を舐めているの? それとも侮辱しているのかしら?」
先輩は可愛い表情で私を見つめて来ていた。
「そんな大げさに私を悪者扱いしないでくださいよ! 気を使っただけじゃないですか!」
私はその先のことは口にせず、他のメンバーを連れて生徒会室を後にした。
「今日も遅くなっちゃったね! でも二年生全クラス終われたのは凄いよ!」
「そうだね由菜ちゃん。今日もみんなはよく頑張ってくれたよ。おかげで心地よい気持ちで満月を望める」
なんだかんだで私の使命だった予算の交渉は無事終了を迎えようとしている。残りは三年生のどこかのクラスから千円ほど徴収できればことは解決する。
「でもどのクラスの委員長も結構あっさり交渉に応じてくれたよね! おかげで本当にスムーズだった! これぞ文化祭実行委員長パワーってやつなのかな?」
「由菜ちゃんは私をどこかのブリタニアの王子様と勘違いしてない?」
おそらく、いや完全に会長の圧力を感じていたよ私は。まさに会長パワーだよ、あれは。
「そういえば、橋向さんのクラスの出し物どんな感じ? 私のところはね、今日からやっと当日必要なものを調達したり作り始めたりしたよ」
「……うちのクラスもそんな感じかな?」
つい言葉を詰まらせてしまった。というかなんて言えばいいかわからなかった。
「でもだいたいこういうのって最終的になんとかなる感じだから気にしなくっていっか!」
私の可愛い由菜ちゃんが元気そうなのが今の私には何より嬉しいことだった。
それにしても今の言葉って抽象的な表現多すぎじゃなかった?
由菜ちゃんを見送った後も私の中にはもにょもにょごちゃごちゃした感情が収まらなかった。とても言葉では表現しにくいんだけど、とにかく私は私の今ある感情疑ってしまう。とにかくはっきりしない。でもそのはっきりしない何かもよくわからない。
今日はもうこのことは考えなっこしよう。眼鏡坂46の曲でも聞いてテンション上げよ。
私はおもむろにポケットからイヤフォンを取り出した。(完)
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