261: ダイナミックに揺らぐ炎のダンス色
森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋のお話。
チロチロと炎が揺れる。
その炎を眺めながら色屋は思い出に浸る。
あれは,私が駆け出しだった頃…
思うように色が集められない旅の夜。
野営をする場所を決めて荷物を下ろし
モソモソと,持ってきていた携帯食を
食べ終わった時。
森の奥からヒタヒタと足音を立てて
老人が火のそばにやってきた。
色屋は一瞬警戒したが,
もとよりこの旅では収穫がほとんどないし,
金目のものを持っているわけでもなかったので
老人に火をすすめた。
「フォッフォ。優しい青年だの」
「いや。旅は道連れ,
あなたが盗賊でないのならば大歓迎です」
「フォッフォ。コレは面白いことを言う。
このジジィが盗賊だとな。 そうさな,
火のお礼に昔話を聞かせよう。」
老人の話は,山中で盗賊とばったりと出会い,
お互いが驚いて逃げ出した話や,
野生の動物に襲われた話,
逆に出し抜いてやった話など,
こちらの心が驚き跳ね回るものだった。
老人の話がいよいよ盛り上がり,
色屋もお腹を抱えて笑う。
炎は赤々と2人の笑顔を照らす。
こちらの心を映すように火も踊り続ける。
「どれ,お主の心もだいぶと広がり
軽くなったようだの。
今なら色が美しく汲み取れるんではないかの」
「えっ……」
「炎を見てごらん。
炎の中心が楽しそうに踊っておるじゃろ?
お主の心とシンクロさせて
そのままを閉じ込めるようにするんじゃ」
そっと手を差し出し、踊る炎の色をすくう。
瓶の中で楽しそうに揺らぐ炎の色。
「やっと納得の色がすくえました」
前を向くと老人は煙のように消えて…
はおらず,にこやかに色屋を見ていた。
「その心の持ちようと
タイミングを逃さないことじゃよ。
さて,体みも温まったし帰るとするよ。
達者でな。」
そう言うと,老人は暗くなった森の中に
帰って行った。
「ありがとうございます…」
そこから色屋は,あの夜を思い出しては
心をシンクロさせ,色をすくうのでした。
今でも時々野営時に現れる老人,
色屋は深く追求せず
楽しい時間を共にするのでした。
あなたもあの時にすくった炎を
見にきてみませんか?