141: 愛を確かめ合う絶好のひととき色
森の奥深く
あなたの知っている
あるいは知らない場所にある色屋のお話。
……
「色屋さん,今日の色はとびきり美しいですよ」
「おや,自信がおありですね?」
「夕暮れにプロポーズをして,OKをもらった
2人の色を,そっと汲ませていただきました」
「それは無粋なことを」
「大丈夫。僕の妹ですから」
「ますます怒られますよ」
「はははっ。 怒られましたが,
僕の仕事も理解してくれているので,
プリプリと頬を膨らませながらも
2人が承諾してくれたんです」
「ところで,どうやってそんなタイミングに
一緒にいられたんですか?」
「それがですね……
今日は夕日が燃えるような赤になるだろうな…
そろそろ色屋さんに納品にかなくては。
今日の赤を採取したら行こうか…
よし。それならあのカフェへ行って
窓辺で待っておこうか。
自転車を漕ぎ,気に入っているカフェで
カフェオレを楽しんでいる僕の目の前の海岸に
妹とその彼が仲良く歩いてきた。
“うわ〜。 こんなところで見ていたのがバレたら
後でなんか言われちゃうよ〜。
妹よ,もっと違う場所でデートしてくれよ〜”
僕は頭を抱えたが、2人は気がつくことなく
仲良く水辺で貝殻を拾ったり,
仲良く寄り添って過ごしている。
刻一刻と太陽が沈み出し,
水平線が赤くなってきている。
僕は採取場所を変えようかと少し悩んだが,
意を決して瓶をカバンから出し,
カフェから砂浜へと出ていった。
「ありがとうございました〜」という店員の声で
妹たちが振り返った。
「お兄ちゃん⁈ なんで⁈」
「それはこっちも同じだよ」
「お兄さんこんにちは」
「いつも妹がお世話になってるね。
あー,妹よ。悪いが兄は仕事がしたいんだ。
甘い雰囲気を壊して悪いが,
ちょっと場所をずれてくれるかい?
仲良く寄り添っている影が採取する時に
入り込みそうなんだよ。」
「……お兄さん。 見届けてください!」
「ん?何を?」
「僕の覚悟と,彼女への誓いをです」
「え…うそ。やだ」
「え…うそ,オレ?」
「待って待って。色が…夕日が…」
「僕の覚悟の色で,夕日が
さらに深い赤色になるはずです!」
“うそーん。どうしたらいいんだ〜“
「茜さん,僕はまだまだ君にとって………
だから,僕と結婚してください」
「はい。 私,あなたと一緒にいたいです」
“おっと〜赤がさらに明るく輝いたぞ〜”
そっと汲み取って…キュっ。
「2人とも,おめでとう。
本当に綺麗な赤になったよ。
妹のトキメキも詰まっているからかな」
「はぁ〜。僕もドキドキしました」
「お兄ちゃんに見られたのは
恥ずかしかったけれど,思い出に残る色だわ。
この色が誰かの手に渡って,何かの作品になって
繋がっていくと思ったら素敵ね」
「僕たちが思い出の色に買いたいぐらいだよね」
「記念日に色屋さんに見に行きましょう」
……
「という具合で,
妹がプロポーズを受ける場面に出くわし,
なおかついい仕事もしてしまいました。」
「おめでとうございます。 大成功ですね。
私も妹さんたちが来られた時に
お祝いを渡せるように用意しておきますね」
「喜ぶと思います。
あいつ,色屋さんのファンですから」
「おや。それは私も嬉しいです。
妹さん達によろしくお伝えください」
……
美しい赤は何に生まれ変わるでしょうか…?
楽しみです。