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262: 明日のしあわせを祈る、昼と夜の境界線時間色

森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋のお話。

「こんにちは色屋さん。お久しぶりです」

「お待ちしておりました。
この森の空気は肌寒く感じていませんか?
まず温かいものを飲んで体を温めてください」

「頂きます。 肌寒くは感じていませんが,
砂がたくさんある乾いた場所から,休みなしで
来ているので、体の芯を温かいもので潤せたら,
一息入れられる気がします」

「ここの空気はずっしりと重く
湿って感じるかもしれませんから,
疲れが抜けにくいかもしれませんものね」

色屋は,乾いた砂の大地からくる青年に
暖かいお茶を出してもてなす。
お互いの近況をゆっくりと話しているうちに
あたりが暗くなり出し,
青年は色屋に一泊することとなった。

「ここは昼と夜の境界が
とても早く,暗く曖昧になるのですね。
私の土地とは違う暮れ方なので興味深いです。」

「ああ、先ほど納品して頂いた境界色ですね」

「はい。 私の土地では,夕暮れの光が長く残るので
明日への祈りをその間に行います。
明日の幸せを,音楽のような祈りの言葉に乗せて
天へと届けるのです。
それが今回の納品した色です。」

「言葉にするのは難しいですが,
しみじみと寂しいような,
明日への希望が乗っているような…
地平線に暮れゆく真赤な太陽が描く,
赤,橙,黄色などのグラデーションの
静かな時間が閉じ込められているような…
率直な言葉で言うと,素敵な色ですね」

「そう言っていただくと嬉しいです。
昼は灼熱で,夜は気温が氷点下まで下がる
生き物には厳しい土地ですが,
美しい祈りの時間を持てると言う,
1日を無事にしまえる,
とても大事な時間ですので、嬉しいです。」

そう,日焼けした肌を保つ青年は,
白い歯を見せてニッコリ笑って喜んだ。
彼の持ってくる色は,
緑が多いが,雨がちの土地には無い,
どこかスキっと通り抜ける色合いが珍しく
美しいので,人気があるのだ。

次はどのような色を持ってきてくれるのか,
密かに期待している色屋でした。

さて,夜も更けてきたので寝るとしますか。
お互いの夢を取り替えられたら楽しそうですよね。
枕の下に,今日の色を置いて寝てみようかしら?
なんて思いながら,横になる色屋でした。
また今度,結果を教えますね。
それではおやすみなさい…


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