21:素足でたたずむテラコッタのテラス色
森の奥深く
あなたが知っている
もしくは知らない場所にある色屋のお話。
………
暑い日差しを避け,一息入れた茶屋で
思いの外,美味しくコクのあるミルクティーを
飲んだ色屋は,ほっと息をついた。
思っている以上に昨日の野営が応えていたようだ。
山…ジャングルのように生い茂った木々は,
濃密な夜を演出し,全くの闇溜まりを作る。
その中での,小さな焚き火は
頼りなく見えたであろうが,色屋にとっては
この上なく頼りになる光と温かさであった。
しかし,闇の奥からの好奇心に満ちた足音や
光を反射する目,木々の揺れが
色屋には,何が側にいるのかという興味と,
恐怖も持ち合わす時間になっていたのだった。
焚き火を見つめること数時間…
そのうち森の住人達も興味をそらし,
各々の活動のために散っていった気配がしたので
色屋は息を吐き,ゴロリと横になった。
「ふぅ。木の上に上がれれば良かったんですが…」
そう呟いた後,スゥスゥと寝息を立て出した。
よほど,長距離移動と色の汲み上げと,
今し方の濃い緊張の時間が大変だったのだろう。
そんな色屋の鞄は,ずっしりと重そうにしなだれ
草の上に置かれていた。
と,そんな昨日の様子を思い出していた色屋に
茶屋の手伝いの娘だろうか,
少女と呼ぶには大人びた娘が
「お茶のおかわりはいかがですか?
もし,お疲れでしたら
あちらのテラスに移動されて,手足を洗って
伸ばされたらいかがですか?
旅の方は皆さんは,そうしてしばし休まれます」
「そうなのですね。
それは気持ちがよさそうです」
「では,すぐにすすぐお湯をお持ちしますね」
峠の天辺にある
見晴らしのいい茶屋のテラスに移動し
こざっぱりした色屋はそこで初めて
辺りの景色をゆっくりと見渡すことができた。
美しい…
木々が重なりあい、緑そして緑と,
延々に続くけれども,ひとつひとつが違う
木の天辺の絨毯。
色屋は瓶の蓋を開け,そっと両手を伸ばし
手のひらでその美し色をすくい取った。
手のひらにゆらゆらと溜まる緑が
日の光をきらりと反射する。
これを逃さぬよう,するりと瓶に詰めるのだった。
気がつくと色屋は裸足で素焼き色…
赤みがかかったオレンジというのか、
テラコッタと呼ぶ色の上に立っていた。
素足の裏に涼しさをもたらす
素朴な土色の素焼きのタイル。
何よりのサービスではないか。
もちろん足を退けた色屋は,
その色もまたすくい取るのでした。
色採取の旅は半分といったところ。
そろそろ店に戻らなければ
皆さんが首を長くして
待っていてくださるかもしれません。
もう一度椅子に座り直し
緑の地平線を眺める色屋でした。