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82:終着駅のオレンジメトロ色

森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

ガタン。プシュー……ハッ!
扉の開く音で目が覚めた。

「ここ,どこ〜⁉︎」

日が適度にさして暖かい座席に揺られていると,
規則正しい連続音と揺れが夢を誘い
いつの間にか寝入ってしまっていたようだ。

色の採取に出かけた僕は,
道中の気になった色を捕まえられるよう,
眼をぱっちりと開け,窓の外を見つめ
流れる緑や家々の屋根,
川の青,畑の青,飛ぶ鳥,手を振る子供
色々なものを見,いつ降りようかと
ワクワクしていたはずだったのに…

「いつの間にか寝てしまっていた!」

僕は慌てて電車から降りた。
このまま折り返すか,それとも駅から出るか
考えるためにホームの端に立ち,
あたりをグルリと見渡した。

そしてもう一度ハッとすることになる。

駅の横には大きな川が流れている。
川幅はそれほどないが,何がすごいかって,
真正面に町の向こうに夕陽が沈んでいくのを
このホームから川を挟んで眺められるのだった。

川面に反射する赤やオレンジ,
夕陽に照らされ黒いシルエットで浮かび上がる町
夕暮れの沈む間際に見せる,その日最後の
煌めきを,誰もいなくなったホームで
僕だけが見つめているのだ。

「はやく…早くすくわなきゃ。
この煌めきはすぐに終わってしまう…!」

慌ててカバンを探り,瓶を取り出し
もうひと煌めきで夕陽が終わる,
その赤さをすくった。

「間一髪だった…!」

救い終わった途端,スゥっとあたりの色が
暗いトーンになったのが分かった。
夕暮れのしっぽの先が隠れたのだった。

珍しく緊張した指が強張っている。
ほっと息を吐き出した彼。

コレからはどんどん闇が濃くなる時間。
彼は心と体をほぐすため,暫し思案した後,
まだ賑やかに灯りが灯る商店街へと足を向け
食事処の灯りを探しに出かけたのでした。

カバンの中では,その日の最後の煌めきが,
赤々と光っています。
彼が今夜や明日もハッとするような
素敵な色に出会えるとイイですね。

しかし,乗り過ごしにはご注意ですよ。
いつも幸運に見舞われるわけではないですからね…





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