441: 深夜の招かれざる来客がまとう色
森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。
「これはずいぶん深い闇色ね?」
「そうですね。 この色は少しだけ怖い目をして
すくった色でして…」
………
カタン。
店で音がした気がして,色屋はふと目が覚めた。
“この時間に店で物音…?
一度見に行った方がいいかもしれませんね”
小さなライトを持って
色屋は物音を立てないように店の入り口に立った。
コトン。カタカタ…
“誰かがいますね。
脅かして立ち去っていただくか,
少々の犠牲を覚悟で乱闘に持ち込むか…”
バタン!
“これはいけない。
どんどん物音が大きくなっています。
遅かれ早かれ瓶が割られてれてしまうかも…”
「誰ですか⁈ 私の店を物色するのは⁈」
ガタガタガタっ!
「ああっ!慌てないでください!
瓶が割れてしまいます!」
シーーーーン。
そろそろと移動し,店の電気をつけると…
そこには黒ずくめで,
目と鼻が出る帽子を被った,ヒョロッとした
男が瓶を持って立っていたのだった。
「あなた!それらの色をどうするつもりですか⁈」
「お,俺は一色だけ必要なんだ!
濃い闇の色に染まらないといけないんだ!」
「なぜ?」
「オレ,情報収集するのが仕事だけれど,
闇夜でなお浮いてしまうんだ…だから…」
“うーーーん,この人向いていない…
私に見つかると言う点と,
ペラペラ喋ってしまう点…
諜報部員としてどうかと思います…”
「ふむ。 あなたがひと目については
いけない仕事をしていると言う事はわかりました。
しかし,勝手に持っていかれても困ります。
ここは私に見つかってしまったと言うことで,
今からもっと濃い闇の色を採取しに
森の奥深くへと行きませんか?」
「そんなこと言って…し、信用できるのかよ?」
「と言われましても…
では,あなたが私の後をついてきて下さい。
一番暗いところで声を掛けますので
暫くじっと立っていてください。
闇色を瓶に閉じ込めて,
その色をあなたに移しましょう。
そして,いいですよと言ったら
そっと立ち去ってください。
そうすればお互い知らない同士ですみますよね
ここは信じていただかないと始まりません。」
「わ,わかった。」
こうして2人で足元も暗い森を奥深く進み,
無事,彼に忍び込むのに適しているような
闇の色を移すことができた。
彼は「ありがとうございます」と礼まで言って
嬉しそうに立ち去っていったのだった。
盛大に枝をボキパキ折る音をたてながら…
“向いていない…“
色屋はヨタヨタとしながら立ち去る
黒尽くめの彼を見送りながら
そう思ったのだが,声には出さなかった。
“しかし,いろいろな方向に怖い夜でしたね…”
と,呟き店に戻る色屋でした。
闇夜の向こう側,
枝を折る音が聞こえてきませんか?
驚かしてはいけませんよ?
彼が慌てて転んでしまいますから…ね?
「
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