322: 砂岩が懐かしむ古の記憶の色
森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。
赤茶けた大地。
サラサラと砂が風に吹かれ移動を繰り返し
波のような跡をつけるような,乾いた場所。
1人の青年がロバに乗り,移動をしていた。
この乾いた大地を抜けた先に
岩が立ち並んでいる場所がある。
昔は祈りの場所として使われていたのか,
所々に色が塗られ,当時の面影が窺える。
青年はロバから降り,そして岩陰に繋いだ。
足元はサクサクと音を立てる砂。
「さてと。太陽が真上に来るまで後少し。
ここに腰を据えて待とうかな」
そう独り言を言い,同じように岩陰に座った。
太陽に温められた空気がゆらゆらと
岩柱の間に溜まる。
すると岩陰から色が滲むように
空気に溶け込み出し,ゆらゆらと形を取り出した。
多くの人が,花をたむけ頭を下げ
祈る姿が行き交う幻が固まり出す。
そのうち,密やかだった音までもが
ハッキリと形を取り出す。
青年はその様子を恐れる様子もなく見守り,
いよいよ幻たちの影が濃くなった時に
傍のカバンから瓶を取り出し,
あっちの岩陰の色,こっちの岩陰の色と,
影の合間をぬうように移動し,
当時の祈りの澄んだ空気と幻たちの影の色を
取り込み歩き,やがてキュッと蓋をした。
瓶を覗けば,光と影がゆらゆらと,
赤茶けた色の中にゆらめいている。
一年に数回,岩柱のこの場所の真上に
太陽が来る時に観られる,太古の記憶の滲み出し。
青年はニッコリと笑い
「森の奥深くの色屋さんへと
納品に伺う日が楽しみになりました」
と上機嫌で呟いた。
乾いた大地からの贈り物。
色屋さんへと,そしてその場所へと
行ってみたいですね。