![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/95347410/rectangle_large_type_2_91f320f17a8db66fd09312c50be200af.png?width=1200)
381: 無意識に気品をまとう大理石色
森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋のお話。
「ありがとうございました」
色屋は,先のお客さまを見送って
店内にくるりと向きを変えた。
その目線の先には、上品な女性が立っていた。
女性は,丈の長い衣装をまとい,
肌触りの良さそうなショールを
ふんわりと肩にかけ,髪もきっちりと結えていた。
「お待たせいたしました。
本日はどのような色をお探しですか?」
「こんにちは。
今日はね,数時間後に開かれる夜会用の
服の色を求めにきたの。」
「数時間後ですか。それはお急ぎですね」
「ええ,今夜は私が少々責任の重い役まわりで,
衣装も決まっていたのだけれど,
お友達とお色が被ってしまうことがわかって。
かといって,こんなおばあちゃんが
華やかな色を選ぶわけにもいかないし,
重すぎる色もダメだから,いっそ
色屋さんに勧めてもらうと思って来たの」
そうおっとりとした笑顔をこぼす女性。
おばあちゃんと言うには早すぎて,
若いと言うには経験を重ねている…
色屋は店内を見回す。
そして,一見くすんでいるようにも見えて
その実,生地によっては光沢をもち、
そして光を放つ,重くもなく,軽すぎない
磨かれた大理石のような灰色を持ってきた。
「奥様,このお色ならば今の生地にのせると
部屋の照明を吸収して,
そして光に変えるのではないでしょうか?」
「あら。まぁまぁ!素敵に落ち着いた色ね。
これならお転婆な私でもお淑やか見えるわ。」
「早速広げてみますね。」
そう言うと色屋は,生地の上に瓶の中の色を
さぁーっと撒いた。
すぅっと生地に吸い込まれるようにして
色が消えたかと思ったその瞬間,ドレスは
落ち着いたグレーに染まっていた。
「ありがとう。これで今日は恥ずかしくないわね。
大役もきっとこなせると思うわ。」
「では,奥様お急ぎください。
ご主人が森までお迎えにいらしています。」
「それではまたね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
カランコロン……
素敵な夜会でありますように。
![](https://assets.st-note.com/img/1673353587008-w48t54HOv2.jpg?width=1200)