142: 愛が伝わる情熱のステップ色
森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。
トン トトン トントン♪
小気味のいいリズムが
どこからともなく響いてきている。
色屋はそっと窓を開けて,物音がどの方角から
聞こえているのかを確かめようとした。
ここは自分の森とは違う熱帯の森の中。
今回は,少し遠出をして暑い国の
情熱的な色を集めに来ていたのだった。
トン トン トトン♪
同じリズムのようで少し違う。
ついつい前のめりになって探してしまうような,
どこか,誘うような音に聞こえて仕方がない。
“見に行ってみよう…”
そっと部屋を出て,気配を消しながら
音のする方へと進む色屋。
と,目の前に,円形に何かで美しく飾られた
小さな踊り場が見え,そこには真っ赤な胸を
いっぱいに反らせて羽を広げて踊る鳥が一羽。
伴侶となる鳥を,美しい我が陣地へと
誘っている最中だった。
色屋はこの鳥が仲良く飛んでいるのを,
この地に来るたびに目にしていたが,
求愛の舞を目にしたのは初めてだった。
大きく反らせた真っ赤な胸飾りの羽。
艶々と光る,大きく開かれた羽。
足で小気味よくたてるリズム。
精一杯のオシャレをし,自分の美しさと
生き残れる逞しさを,伴侶となる同族に
陣地に入ってくるまで見せ続ける。
色屋は,そのひたむきさに感心し,
説明のつかない,“何か”に向かって
応援をしたくなるような感情を持ち,
鳥たちを固唾を飲んで見守っていた。
とうとう,伴侶が陣地に入り,
かの鳥たちは無事つがいとなり,
用意された巣へと羽ばたいていった。
後に残されたのは,艶々と光る小石や,
美しい何かの羽根,花びらなどで飾られた
サークルと,何かの拍子に抜けたのだろうか
真っ赤な羽根が一枚ひらりと落ちているだけ。
先ほどの情熱的に誘っていた鳥を思い出し
色屋はその羽根からそっと色を
すくい取ったのでした。
僕もあれほどの情熱を持たないといけませんね…
なんて言う独り言を残しながら,
部屋へと戻る色屋がいたとか,いなかったとか。
彼のプライベートもまた,気になりますね。