222: 熟れすぎたラズベリーの華麗なる変身シェイク色
森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。
ずここっ。
思いがけず大きな音が出た。
俺は首をすくめて最後のシェイクを吸い切った。
“はぁ。美味しかった。
甘酸っぱくて綺麗なピンク色だったなぁ。“
静かなざわめきが広がるカフェで,
色屋に納品をする青年がニコニコ顔で
シェイクを飲み切っていた。
”ラズベリーシェイクという見出しに惹かれて
注文をしてみたけれど,正解だった〜。
十分に熟れたラズベリーなので,
とっても美味しいですよ!って
店員さんが言っていたけれど,正解〜。
でもちょっとまてよ、ラズベリーって熟れると
ちょっとどす黒くなって
艶がなくなるんじゃなかったっけ?“
トストストス。
検索をかけて実を見てみる。
”だよね〜,こんな感じ。
でも,,さっきのシェイクは色鮮やかな
ピンクがかった赤だったよな〜!
うーん鮮やかに色が変身する実だなぁ。
乙女心がきゅん★って感じ…?
ハハっ,恥ずかしいわ。
心の声が漏れないように気をつけよう。“
店は、女子率が少し高め。
いわゆる写真映えがするクリームソーダーや
美しいフルーツサンドがメニューに並ぶが、
同時に、昔ながらのパンケーキや
どっしりとしたチーズケーキなども置いてある。
”この店の、新しいんだか
古き良き時代を守っているんだか、
客層がわかりづらいところも
魅力なんだよな〜。
陽が差し込む小さなテーブル席辺りには
隠れ家的になる衝立があるから、
ついつい来ちゃう。
ひょっとしたらこの店に来る皆が
そんな感想を抱いて,はしゃぎ過ぎず
静かなざわめきで満たしているのかもな。
まんまと店の魂胆に嵌められているってわけか“
ツラツラと、とりとめなくシェイクの色や
店のことを考えていた青年だったが,
やおら定員さんを呼び
「さっきのシェイク,とても美味しくて
美しい色だったので,もう一杯注文をして
瓶に色を頂いてもいいですか?」
「僕、こういう仕事をしているんです」
と,名刺を差し出して、
厨房に声をかけてもらった。
程なくして運ばれてきたシェイクは、
厨房の親切心がそうさせたのか、
先ほどの物より幾分か色が鮮やかになっていた。
そんなシェイクを見て青年は、
かすかな苦笑を浮かべ、瓶に色をすくい取り、
お腹をタポンタポンにさせて
仕事を完了させ,飲み物欲を満たしたのでした。
…そんな新旧入り混じる
不思議なカフェに、ワタシも行きたいです。
もし、青年に出会えたら,
連れて行ってもらいましょうね。