282: チクチクよりも心地よさが勝る ふかふかの芝生色
森の奥深く
あなたが知っている
あるいはしらない場所にある色屋の話。
裸足でそっと芝生を踏む。
ひんやりとした感触が足の裏に伝わってきた。
午後3時の芝生。
太陽に温められた,フワッとした感触の芝生も
好きだが,やはり,
ひんやりとした芝生の方が爽快さを感じる。
青臭い香りが立ち上がる真昼の芝生。
朝露でしっとりとした芝生。
夜の眠りについている芝生。
どの時間にも,気分転換を図るときは
わざわざ裸足で芝を踏んで歩いたものだ。
そして私の中での一番は,午後3時の芝生だった。
ある日,手入れを頼んでいる人の都合がつかず
別の人がきて手入れをしてくれたのだが,
コレが辛かった。
足裏に芝が主張をするのだ。
チクチク,チクチク。
温かさも冷たさも分かったものではなかった。
それから芝生が伸びるまで,
ジリジリと待った日々。
“まるで仕事が手につかなかったものだ。”
そう漏らすと,「それぐらいで仕事が
手につかないなんて」と苦笑されるが,
僕のささやかな気分転換にして
趣味になりつつあるのだから,
真剣に捉えて欲しいものだ。
手入れの方には,「ふかふかでいつものように」と真剣な顔でお願いをした。
輝く笑顔で頷いてくれたので,
しばらくは快適にそっと足を下ろせるだろう。
それからしばらくして瓶を持った男性が
手入れの方と訪れて色をすくっていったのは,
私と,手入れをしてくれている彼の
ささやかな一つの自慢になった。
うちの芝生が,しらない誰かの心を
暖かくする、いや、、
ひんやりと落ち着かせるのかもしれない。
そう思うと,くすぐったい気分になる。
もちろん僕も,小瓶に詰めて分けてもらい,
いつも目にする場所に飾ってある。
イイ芝生の色だ。 ウットリと眺めていられる。
つくづくそう思う。
たくさんの人の目に触れてもらいたい。