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32:ブルーラグーンの露天風呂の色

森の奥深く。
あなたが知っている、
あるいは知らない場所にある色屋でのお話。

コトン。
「色屋、この色をいただいていくよ」
「ありがとうございます」
「随分と綺麗な色じゃないか。
どんな物語が詰まっているんだい?」
「それはですね…

馬蹄形に入り込んだ入江には、
毎日決まった時間に船を出す少女がいた。

彼女はいつも舳先から海を覗き込むのだった。
ある日は海の底で光る貝殻を見つけ,
ある日はきらりと光る魚の鱗を見つめ,
飽きることなく海の底に,あるいは空に
キラキラとした視線を投げかけていた。

もちろん,彼女は遊びのために
船を出しているのでは無い。
小魚を取り,家族のささやかな食卓を
おいしく彩るために漁をしているのだ。

時には1匹も取れず。時には大漁で。

そんな彼女を毎日見ていた雲は,
遠い空まで滑ってゆき,
その行った先々で,雨に言葉を乗せ
彼女のことや,その他の国々にいる
キラキラとした目を持つ子供たちの話を
山や樹に教えてあげるのだった。

笑い声が染み込んでいるキラキラの雨粒は,
山や樹々を喜ばせ,
やがてゆっくりと地に吸い込まれ、
温められて湧き出てくるのだ。

その,コンコンと湧く湯は,
疲れを取り心を温め,ゆったりと浸かり
出てくると,笑顔が溢れるという話。

そんな露天風呂から組み上げてきた色です。 」

「なるほどな」
「お客さまは,この色を何にお使いで?」
「新しい布地を染めようと思ってな。
飛び跳ねるような青になるか,キラキラと
光を跳ね返し共鳴する色になるか,
今から楽しみだよ」
「噂が流れてくるのを楽しみにしていますね」

カランコロン。
扉が閉まり静かになった店内。
さまざまな瓶の中には
たくさんの物語が詰まっています。
次はどなたが買いに来てくれるでしょう?

色屋は静かに待つのでした。

Iceland steam 




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