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347: いつもと違う表情に戸惑う、黄昏時の薄明かり色

森の奥深く
あなたが知っている
もしくは知らない場所にある色屋のお話。

夕焼けの終わりの色がピーニャのカーテン越しに
そっと色屋の床を彩っている。
赤く燃える様な夕焼けが終わり,
オレンジ,黄色,そして青から始まる夜が来る。

さまざまなお客様や色を売りに来る人々の
往来が終わり,次第に森の闇へと沈む色屋。
もう少し,街灯を灯すには早い時間。
こんな狭間の時は あの市場を思い出す……

昼間の照りつける太陽を避けるためか,
建物と建物の間を縫うようにして
広がっている市場。  土産物の商店が多いが,
迷路のような道を一本横に入ると,
思いがけなく,美味しい茶葉を売る店や
コーヒーを飲ませる店が現れたりする。

ガヤガヤと響く声,カチャカチャと土産物が当たる音が反響している市場。
コーランが響く頃,一旦静かになるのだが
また,喧騒が戻ると市場は観光の客を魅了する。

一本道をそれ,明るく窓の開ける場所がある。
日中は光と共に風が入り,
夜には密やかな冷気が忍び込む。
そこが,色屋のお気に入りの場所だった。


うなるような市場の熱気を避け,迷うように
歩いたその先,不意に視界が開けたのだ。
ちょうど,赤く燃える太陽が終わり,
色とりどりのグラデーションが沈むその瞬間,
明かりが灯る市場の、夜の顔が浮かび上がった。
うなりがそっと引き,星々の瞬きが
聞こえてきそうなその一瞬,
色屋は色を閉じ込めるのも忘れ
移ろう黄昏時を見入ってしまったのだった。

すぐに戻ってきた喧騒にハッと我に返った色屋は
首を振りつつ「明日もう一度」と,
滅多にお目にかかれない瞬間だとはつゆ知らず
宿に帰ったのだった。
そして,行くたびに見入ってしまう
お気に入りの場所となった。

あれからしばらく滞在をする羽目になったのも,
思い返すといい時間だったと思う。
何せ,あの市場はあの場所以外にも、
あらゆる色が沈んでいたから。
そう思いを馳せ,街灯をつける色屋でした。

次はどんなお客さまのお話が聞けて
色が動くでしょうか。
色屋が貴方をお待ちしております。

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