銀河売り :「銀河売り」
「銀河売りは、来なくなっちゃったねえ。」
と、おばあちゃんは言った。
「え? 銀河売りってなぁ〜に?」
「昔はね、銀河売りが来たんだよ。
唐草模様の大きな風呂敷にね、沢山銀河を詰めて。
風呂敷を広げるとね、沢山の銀河がぱーっと広がるんだ。
そりゃあ、きれいだった。」
「なんで来なくなっちゃったの?」
「う〜ん。理由は色々あるだろうねぇ。」
おばあちゃんは悲しい、ここではない場所を見る顔をした。
「昔は、あちらこちらの家で銀河を買って、それを夜空に浮かべるから、それは綺麗だったんだ。
みんなで、それぞれの銀河を眺めて歩いて星空散歩だね。
でもね、産業って言うのが始まって、みんな忙しくなってったから、銀河の手入れが出来なくなって、段々買う人が減ってった。」
「銀河の手入れ?」
「埃を払ったり、霧吹きで水をかけたり、意外に手間がかかったんだよ。
それにね、忙しいって、見る人も減って行った。私は大好きだったんだけどね。」
おばあちゃんは、空を見上げた。
「それでも、銀河売りは来てたんだけどね、偽の銀河売りが来るようになったんだよ。
偽の銀河売りの銀河は、売る時は銀河なんだけど、その時だけなんだよ。後で、空に浮かべようとしても、光もしないし、浮かびもしない。
本物の銀河売りか、偽物の銀河売りか区別が付かなくて、みんな買わなくなっちゃったんだよ。」
「今は、銀河売りの人はどこにいるの?」
「さぁ〜。銀河売りはずっと銀河を売り歩いて旅をする人たちだったから、家はなかったんじゃないだろうか?」
「じゃあ、どこにいるのか分からないね。」
「銀河売りはどこにいるんだろうね。」
「もう銀河売りはいなくなっちゃったの?」
「分からない…。
だけどほら、こうして、誰かが銀河売りを知っていて、もしかして、誰かが買う事があったら、また、銀河売りが来るかも知れない。
だから、理央に覚えててほしいんだ。」
「うん。」
「銀河をね、壺から出して、手に乗せたら、そっと空に離すんだ。そしたら、銀河は大きくなって、空で色んな色を放ってキラキラ光るから…。
それは本当に綺麗なんだよ。
戻ってきて欲しくなったら、帰っておいで…って言えば帰って来るから。
その時に、埃を払って、霧吹きで水を吹いて、壺に戻せばいいんだよ。
お手入れすると、銀河は長持ちしてくれるんだよ。」