ランチュウ : 『咳をしても金魚』
「咳をしても金魚」
私のランチュウは、今日も咳をする。
小さな泡をポコっと出して、
その度に、私をハラハラさせる。
いったい、
何匹、買っただろう。
ポコっと咳を始めると、
やがて頭部の肉瘤が白くなり出し、
そして死んでしまう。
死んでしまう度、
私に愛情がないのを確認するようで、
それが私なのだと思わずにはいられない。
私はそんな人間ではないと証明するためにランチュウを飼ってしまう気がしている。
ランチュウが好きだから飼っている訳ではない気がする。
そんな、勝手な思いで飼われるランチュウもいい迷惑だろう。
また、ランチュウはコポッと咳をした。
イヤイヤ。
これは咳じゃない。
そう思い込んでみたらどうだろう。
ただの深呼吸
…そう思ってみたら。
ただの空気遊び
…そう思ってみたら。
私の「咳をしたら死んでしまう」と言う思い込みが、ランチュウに伝わって、ランチュウは死んでしまうのかも知れない。
そもそもが、
私は優しい人なんかじゃない。
好きでもないくせにランチュウを次々に飼う時点で、優しくなんかない。
ランチュウが幸せに生きることより、自分が優しくある事を証明したいだけなんて…。
それを歪んだ偽の愛情と言うんだろう。
歪んだ愛情をもの言えぬものに向けるなんて、何て私は卑怯者か。
またランチュウは、
ポコッ
ポコッ
ポコッ
と、小さな泡を吐いた。
「ばーか」
「ばーか」
「ばーか」
え?
そう言った?
左右に離れた大きな目で私を見ている。
「ねぇ? ばーかって言った?」
ポコッ
「やっぱり、ばーかって言ったよね?」
ポコッ
左右に離れた大きな目は、
明らかに「ばーか」って、笑っている
…気がする。
尾っぽをヒラヒラさせて、それは楽しそうにも見える。
まんまるの体をヒラヒラの尾っぽで動かして、水槽を一周すると、左右に離れた大きな目で私を見ながら、
コポッ
と、また泡を吐く。
私をおちょくってるようにも、
遊んでいるようにも見える。
クスッと笑ってしまった。
下らない私の感情。
私が優しかろうが冷たかろうが、
生きるランチュウは生きる。
私が思うより命は強い。
命をもっと信じていい。
ポコッ
「ばーか」
また、クスッと笑ってしまう。
ゆらゆら揺れながら水槽を周り、
私を見ながら、
ポコッ
水槽の中を飛ぶ赤い飛行船みたいに、
無重力に浮かびながら、
ポコッ
私に背中を見せて、
尾っぽをヒラヒラ、
ポコッ