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りんご箱を探して : 「#りんご箱」



「りんご箱。
昔はりんご箱を机にしてたのよ。」

そう母さんが言う。

母さんは昭和初期のものが好き。
引き出しにくい桐の箪笥とか、
木の木目が浮き出た椅子やテーブル。
今回は、木箱のりんご箱が欲しいと言う。

「でもね、昔はりんご箱が簡単に手に入ったかもしれないけど、今はかえって割高でしょ。」

「そうねぇ。
りんご箱が売られてるのなんか見た事ないわ。」

「じゃあ無理じゃない。」

「だけどさぁ、あの感じがいいんだけどなぁ。」

裁縫のテーブルに、りんご箱を使いたいと言うけれど、アンティークショップを回っても、さっぱり見当たらない。

「ちょっと休憩しようよ。」

と、カフェに入った。
日曜のカフェは、混み合ってはいるけれど、みんな寛いでのんびりしてる様に見える。

二人で、カフェ・オ・レと、アップルパイを頼んだ。

「何でりんご箱がいいの?
椅子にテーブルの方が、立ったり座ったりが楽じゃない?」

「うーん。確かにね。
でも、木箱の中に裁縫道具を入れたら、手元に何でもあって取り出しやすいでしょ。
それにね。やっぱり日本人なんだなぁって思うんだよね。畳に座って木の手触りに触れていると落ち着くんだよねぇ。」

「おばあちゃんみたい。」

「縁側でお裁縫なんて、最高。
おばあちゃんかぁ〜。
う〜ん、そう言うのじゃない気もするんだよねぇ。
自然に近い感じがいいの。

…やっぱり、おばあちゃん?」

「まだ、おばあちゃんにならないでね。」

「おばあちゃん、おばあちゃん、
言わないでくれる。
何だか、おばあちゃんになっちゃうじゃない。」
と、母さんは笑った。

そもそも持っているその人の性格、生まれた場所、家庭、周りにいた人達、その年代…。
色んな要因で人は作られ、誰一人同じ人はいない。みんな違う。
それなのに、その年代のカラーがある。
母さんにもそのカラーはある。
私の年代とは明らかに違うのだけど、どこがどう違うのかはっきり分からない。
匂い…の様な気もする。
匂いって事は、細胞の古さだろうか?
母さんを、おばさんとか、おばあちゃんとか、どんな言葉に当てはめたらいいのかは不明だ。
それは、母さんが年齢不詳のせいもある。若作りとかではなくて、私の姉に間違われたり、お婆さんに間違われたり。
母さん自体も、自分の年齢を決めてはいなくて、自分の出来ること、好きな事をやっているだけに思える。
当てはめる必要もないのかもしれない。
だって、母さんは母さんだもの。
本当は、人はみんなそれぞれなんだし。
そんな母さんといると、ちょっと楽。
好きにしたらいいって、言われてるみたいだ。

「りんご箱、見つからなかったらどうするの?」

「作ろうかな。」

「ねぇ。りんご箱、見たことあるの?」

「あるよ。むかーし、テレビで。」

「テレビ? 本物は?」

「ない。」

「ないって…。見たこともない物を1日探したってこと?」

「あるよ。テレビで。」

「はぁ〜。それ、あるって言わないでしょ。ネットで探せば良かったのに。」

「そうだね。」
と笑い、
「便利な世の中になったね。」
と、すましている。

まぁ、いいか…と、思うしかない。
ここの払いは、母さんのおごりだな。




「りんご箱」から始まる小説・詩歌・エッセイなどを自由に書いてみませんか? みんなで読み合うお遊び企画です。締切は10/22(日)21:00。記事には「#シロクマ文芸部」をつけてください。他の参加作品1つ以上にコメントするの @komaki_kousuke #note

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