クレゾールと西田敏行
クレゾールはご存知だろうか?
昔、病院の臭いとは、消毒液のクレゾールの臭いだった。病院の臭いが嫌い…と言う人も多かった。
クレゾールは、今や消滅したものの一つ。私は、消滅して良いモノの一つと思っている。細菌を殺し過ぎるのだ。人の体は、沢山の細菌やウィルスと共存している。細菌バリアで守られてもいるのに、ある菌を殺すために、細菌バリアまで殺してしまう。
今や見ることのないクレゾールが、倉庫の片付けをしていると、1ダースも出てきた。
ワー! これ処分大変だよ。
と、私は、ビックリとこの後の手ハズを考えて、重しをドサッとノセられた気分になった。
そんな私を尻目に、
「西田敏行って知ってる?」
と、言う。
…ナンノコッチャ?
「知ってますけど?」
「クレゾールと言えば、西田くんを思い出すの。」
…ニシダクン?
「西田くの家に遊びに行くと、凄く大切に育てられてたから、いつも西田くんはクレゾールで消毒されてたの。」
…ニシダクンノイエニアソビニイク?
「何で、遊びに行くんですか〜?」
「だって、近所だったんだもん。遊びに行くと、その頃高価だったプリンとか食べさせてもらったのよ〜。」
…エーーーーーー!!!!!
プリンとか、昔は確かに高価だった。プッチンプリンはおやつの定番になったけど、それ以前は、手作りのスが少し入ったプリンで特別なオヤツだった。
そんな事より、ニシダクンとは、あの西田敏行?
もう倉庫の片付けどころではない!
「私、池中玄太80キロから、ずっとファンなんですよ!!!!!」
「あらそ〜。お笑いとかで有名だものね。」
…は〜〜〜〜!
「お笑いじゃありません! 俳優で歌手です。ナンテことを言うんですか? 確かに、お笑いみたいなところもありますけど………。」
と、お笑いを否定出来ない所もあって、言葉が尻すぼみになる。
同僚は、かなり可笑しそうに、
「西田くん、本当に好きなんだね。」
と、笑った。
「西田くん、ショッチュウ帰ってきてるのよ。月に一回は帰ってくる。運動会なんか毎回来てるから、もう誰も写真撮ったりしないわよ〜。」
…は〜。
人はどんなに近くにいても出会わない。どんなに出会いたいと思っても出会わない。
どうして、大好きでも出会う人と出会わない人の差ができるのか?
神様が…とか言うのは信じない。もし神様がいるなら意地悪すぎだ。
それとも、出会うための資格がいるのだろうか? 私には手持ちの資格が少なすぎるのだろうか?
同僚はニシダクンの話しに飽きて、他の話を始めた。
適当に話しを合わせて、片付けをしたけれど、ニシダクンの話しがグルグル回る。
西田敏行の話しに戻るけど…と、何度も西田敏行の話しに巻き戻し、同僚から色んな事を聞き出した。
「また西田敏行の話し何ですけど、私ね、西田敏行って、強運の持ち主だと思うんですよ。」
そう言うと
「そうでもないのよ。ちゃんと辛いことはあったの。…。」
と、過去の話を始めた。
私は、ウルウルしながらその話を聞いた。
当たり前だけど、誰にも辛い出来事はあって、辛いことなんかないみたいに生きている。
余計に西田敏行に会いたくなった。
「西田敏行にあって、話したい事は何もないんですけど、もしもピアノが弾けたならを歌ってほしい。そこにピアノもあるし、マジで聞きたい。」
そう口に出すと余計に、ピアノが弾けたならを、聴きたくなった。聴いている自分を想像して、ウルウルしてきた。
「そうか〜。○○くんに言ってみる。いいわね〜。あの歌、いいわよね。」
と、同僚は楽しそうに返事をする。
もしかしたら、私の希望が一つ叶ってしまうのかもしれない。
そう思うとまた、ウルウルしてしまう。