幸せな重み
仕事から帰ると、ちょうど西の空に太陽が沈みかけているときで、そのときの空がものすごく綺麗だった。
淡い水色にピンクにオレンジ、紫、色々な光が美しく混ざって、そこに夏特有のくっきりとした雲があって、ただただ素晴らしい夕方だった。
嬉しくなって、息子を誘って外に連れ出した。
お気に入りのブロックで遊ぶことを突然絶たれた息子は少し不満そうで、それでいて嬉しそうで、帰ってきた私に甘えたかったのだろう。彼は靴を履くことを拒み、私の背にかじりついてきた。
5歳。なかなかの重み。でもまだいける。最高じゃないか。
私は息子をおんぶして歩き出した。全身でしがみつく力がすごい。顔は見えなくても、その力の込め具合で絶対に今笑顔だと分かる。
坂を登り、空を広く眺められるところまできた。ふと立ち止まれば、色づいた夕方の空と南風に心も染まっていく。
あと何回、こうして一緒に空を眺められるだろう。
あと何回、抱きしめさせてもらえるだろう。
あと何回、手を繋いで歩けるだろう。
息子を抱っこする度に思うこと。
必ず最後が来ること。
気づかぬうちに、もうすでにいくつかの最後を通過していること。
こんな感情もまた、私の人生に彩りを与えてくれていること。
もう忘れてしまった、生まれたての息子の軽さ。
でもそのときは、重く感じられて仕方がなかったこと。
全身がいたくて、つらくて、泣かれるのが怖くて仕方がなかったこと。
今まで頑張ってきたなあ。私も、息子も。
「ママ、おうちにかえろう。」息子の一言が空に響いた。
そうだね。かえろう。
これからも続く日常を、君と一緒に過ごそう。
一緒におうちに、かえろうね。
息子のやわらかな体温を背中で感じながら、もと来た道を歩き出した。
裸足の息子が、さっきよりもほんの少し軽くなった気がした。
ありがとうございます!