たった3か月でボロボロになった本。つくった本を手に取ってもらう喜び
7月某日。
一冊の本を持って、啓文堂書店府中本店を訪問しました。
その本とは、今年の4月に遊泳舎から発売した『くらやみ祭ってナンだ?』。東京府中市にある大國魂神社の例大祭「くらやみ祭」を取り上げたイラストガイドブックです。
啓文堂書店府中本店は、府中駅前にあり、大國魂神社から最も近く、本書籍を最も多く売っていただいている書店。今回、改めて『くらやみ祭ってナンだ?』を持って行ったのは見本誌の交換のためです。
発売から約3か月が経ち、その間にたくさんのお客さんに手に取って試し読みをしてもらったこの本は、カバーが破れ、小口部分は真っ黒に変色、所々ページの端が折れ曲がっていました。この状態を知り、こちらから書店に見本の交換を申し出たというわけです。
4月に発売し、3か月の間、見本として展示されていた『くらやみ祭ってナンだ?』。まるで何十年も前の古書の様。
一般的に編集者の仕事は「本をつくること」とされていますが、僕はこれを半分正解で半分不正解だと思っています。なぜなら「本をつくり、読者の手に届けること」が編集者の仕事であり、役目だと考えているからです。
幸いにも現在、遊泳舎から発売になった4タイトルは、すべて増刷することができました。しかし、出版不況の昨今、版元の倉庫で眠ったまま、一度も書店に並ぶことなく断裁されてしまう本も少なくありません。
本の制作、印刷、流通、宣伝、販売などの過程では、たくさんの方々の関わり、協力があって成り立っています。出版社によっては本の営業・販売は編集者以外のスタッフが引き継いで行うこともあるでしょう。
しかし、本の作り手として、なんとか読者の手に取ってもらい、一冊でも多くの我が子を読者の皆さんの本棚に迎えてもらうことに気を配りたいのです。
今回、啓文堂府中本店で3か月間、展示していた本は、本体に汚れや破損があるため、カバー交換をしても再出庫はできません。しかし、これほどまでに多くの方々に手に取ってもらい、多くの人に読まれたであろう本はそう多くないと考えれば、とても幸せな一冊だったのではないかと思います。役目を全うしてくれた見本は遊泳舎で大切に保管するつもりです。
編集者冥利に尽きる体験をさせていただいた啓文堂書店府中本店、『くらやみ祭ってナンだ?』を手にしてくださり、購入いただいた皆様に感謝を申し上げます。
発売当初から大きく展開してもらった売り場。お店のランキングでベストセラー本と並んで2位になったことも!
(文・中村徹)