ゆえ
ファンタジー小説。 ≪イ・ツェトの民≫と呼ばれる生涯をかけて世界を巡る流浪の民と、彼らと絆を交わした≪精霊≫たちの物語。
私の中の異世界や、そこにあるもののエネルギーを読み取って書いた小説です。投げ銭式。面白かったらご支援お願いします♪
愛用しているエッセンシャルオイルたちを物語にしました。 人を愛するために生まれた存在の、人を愛する物語群です。
チャネリングして書いたお話を置いてます。良いエネルギーを受信すると気持ちいいデスネ♪
人間〇〇回目、という言い回しがある。個人的にこれは正しい見解だと思っていて、人間をやった回数が多ければ多いほど、仙人のような人になって、やがて魂の上位種みたいなものになるんだと思っている。回数ではなく内容だ、という人もいるけど、試行回数が多ければ質もよくなるのは自明の理だ。 先日、セッション中にクライアントさんから、「ゆえさんは人間最後っぽいですよね」と言われた。そういう風に見えたことはとても光栄なことであったが、私はそれを否定した。私は、次も人間に生まれる予定だからだ
上京してからそろそろ三年になる。強くやりたいと思ったことがあったわけでもなく、ただ東京への憧れだけで選んだ進路だったが、幸運にも人の縁に恵まれて今までなんとかやってこれた。仕事は派遣社員として色々なところを転々としている。もともと同じところに長くいるのが苦手な性分だったので、この生き方は自分に合っていると思っていた。 嘘だ。本当は、ちょっとだけ、寂しい。そういう本音は、時折、風に吹かれたように舞い上がって目の前に現れる。たとえば一人で晩酌をする夜に。たとえばなんの予
「知ってる? 今日は満月なんだ」 古めかしい応接室には赤褐色の暖かい光が落ちている。閉められたカーテンの、その分厚いドレープの隙間から窓の外を覗き込んで、『魔女』はなぜか楽しげにそう言った。この部屋には、自分と、『魔女』と、猫が一匹がいる。他にも人はいるはずだが、今日はここに現れるつもりはないらしく、誰が来るという気配も感じられなかった。 「ふぅん……で?」 そっけなく答える。無視しても良いし、出来ればそうしたかったが、そうすると『魔女』はますます楽しげ
夜の海を小舟が進む。小舟とは思えないほどのスピードで、風を、波を切って舟は進む。 空には月と満天の星があった。空に煌めく星々を道しるべに、一切の不安も、迷いもなく、舟は進んでいく。 舟先に立つその表情は楽しそうだ。火はない。日もない。明るさといえば夜の女王とその仲間たちの輝きだけだというのに。 捨てられないと抱えていた荷物は、気が付けば中身がからっぽになっていた。持っていると思っていたものは、すべてただの錯覚で、本当はなにも持っていなかったのだ。 小舟
交互に点滅する赤いランプ。甲高い耳障りな警告音。それに負けじと声を張り上げる赤ん坊の泣き声は、雑踏の音に紛れて消えていく。 疲れていた。疲れていると自覚できないほど、深く疲れていた。乳児は朝も昼もなく泣き、母親の精神をすり減らす。目の下にくっきりと刻まれたクマは黒くどんよりと陰を落とし、ただでさえ落ち窪んだ目を更に鬼気迫る印象にさせる。 正常な思考力などとうになかった。誰も味方のいない、一人きりの部屋。逃げ出したくて、なにも持たずに家を出た。逃げられなくて、我が子を抱
午前六時にセットしたアラームが鳴る。昨日も寝るのが遅くて、朝の目覚めは最悪だ。ベッドの中でもぞりと蠢き、腕を伸ばす。枕元に置いたスマートフォンを操作してスヌーズを止める。画面の光が目に痛い。 十五分後、再びアラームが騒ぎ出した。そろそろ起きなくてはならない。思うだけで行動にはなかなか移せない。結局、実際に起き上がることができたのはそれからさらに十分後のことだった。 生欠伸を噛み殺しながらベッドを降りて、脱ぎ散らかした服の合間を踏んでトイレに行った。用を足したあと、顔
ルカは靴下を履いた猫だ。もちろん本当に靴下を履いているわけではない。毛の模様がそういう風に見えるというだけだ。 ついでに言ってしまうと、本物の猫でもない。 ルカ、メラルーカの正体は、パルファムと呼ばれる精油から生まれた使い魔だ。仲間たちの多くは人間と同じ姿を好んで取っているが、ルカはあえて猫の姿をしている。 使い魔である以上主人はいるが、ここ数年その姿を見ていない。地球上のどこかにいることはわかっているが、少なくともルカは主人がどこにいるかに興味はなかった。
妻が死んだ。結婚して五年。いつも新婚みたいねとからかわれるほど、仲のいい夫婦だった。 子供は二人。三歳になる双子だ。子供は三人はほしいねと話していたから、いきなり双子を授かったことに、妻は誰より喜んでいた。 ぽっかりと穴が開いたようだった。心の奥の、一番大事な場所に、埋めることのできない穴が空いている。ぴゅうぴゅうと冷たい風が吹き抜けている。凍えるようだ。温めてほしいのに、温めてくれる手はもうどこにもない。 妻の両親が、たまには息抜きをしてきなさいと子供達を預か
いつの間にかそれは部屋の片隅に鎮座していた。 六角形の薄汚れた箱だ。 大きさは一抱えほど。 埃が積もっているわけでは無いが、醜く黒ずんで、触りたくないと思わせる。 だから、見ないようにしていた。 箱はあるのにないものだった。 いつからあるのか思い出せないほどそこにあり、ずっと存在を無視されてきた。 嫌だ嫌だと思うものは逆に目についてしまうものだ。 忘れたふりをしていても、そこにそれがあることはずっと頭の隅に引っかかって心に影を落としていた。 時折ふと思い
山脈を内包しない平らな大地というものは、その内陸部に乾燥地帯を持つものだ。世界で三番目に面積の大きいシフトト大陸はその条件にピタリと当てはまっており、この地で水の恩恵を得て緑を抱するのは王都と虹の女神エイリスを祀るエイリス神殿の二ヶ所だけだった。 大岩ばかりが転がる代わり映えのしない赤茶けた大地を進むこと数日、緩やかな上り坂をずっと進み、その頂点に辿り着くと、大陸の中央だけが大きく窪地になっており、その内部一面が広大な大森林になっていることを旅人は知る。エイリス神殿をそ