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アニメ『君は放課後インソムニア』第1話「能登星」星の名を読み解く

この記事の趣旨
アニメ『君は放課後インソムニア』のサブタイトルの星を読み解く|ゆえ|note


アニメ『君は放課後インソムニア』第1話のサブタイトルは「能登星 ぎょしゃ座カペラ」である。
この作品の舞台が、能登半島に位置する石川県七尾市であることから、初回のサブタイトルに「能登星(のとぼし)」が選ばれたのだろうと思う。


ぎょしゃ座カペラとは

ぎょしゃ座のα星、固有名「カペラ/Capella」は、「子供の雌山羊」を意味するラテン語に由来する。
冬の有名な星の一つで、1等星の中では最も北に位置するため、見えている時間が最も長い。
日本の多くの地域では、秋頃になると、北東方向から上がってくるように見える。
北海道の北部(北緯44度以北)では周極星(天の北極に近いため地平線の下に沈むことがない星)となる。
光の色は、太陽と同じような黄色である。


カペラを能登星と呼ぶ地域

「能登星」というのは、日本の一部地域に伝わっている呼び方で、日本全国どこでも古くからそう呼ばれているというわけではない。
『日本の星名事典』によれば、福井県や京都府の海辺に伝わっているとのこと。
その地域から見ると、カペラが上がってくる北東方向には、能登があるので、能登のほうに見える星、ということだ。

◎ノトボシ(能登星)
 磯貝勇氏は、『丹波の話』で、「若狭、丹後の海辺では東北方向に見えるこの星をノトボシと呼んでいる。能登の方向に現れるためである」と記している。磯貝氏は、京都府竹野郡間人町(現・京丹後市)、下宇川村中浜(現・京丹後市)、与謝野郡本庄村蒲入(現・伊根町)、伊根村(現・伊根町)、舞鶴市吉原でノトボシを記録した[磯貝1956]。

出典:北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房

「ノトボシというのは、能登の方の上からのぼってくる。越前岬のところからあがってくる」[北尾1991]
 話者は、「能登の方の上」と言ってから「越前岬のところ」と言いなおしたが、実際に能登半島が見えるのかどうか確認すると、「見えへん……。その方向から上がってくる星があるんや」という答がかえってきた。ノトボシという星名が形成されたのは、漁場であった。生業の現場から、多様で豊かな日本の星名が誕生したが、ノトボシもそのひとつであった。

出典:北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房


同書には、能登よりも北東に位置する北海道にも「能登星」が伝えられているという、意外な事実も書かれている。

「能登星」は、その名の土地とは遠く離れた北海道で伝えられている。その感動的な情報を与えてくれたのは、武田みさ子氏編『岩内歳時記第2集 星の歳時記』である。武田みさ子氏は、「漁師は越前衆が多かったので、能登半島は地形が似ていることから、ホリカップの岬に出る星を郷里での呼び名の通りに『ノトボシ』と呼んだ」と述べている。

出典:北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房


能登以外の地名を含むカペラの和名

◎オーギヤマボシ(扇山星) 静岡県引佐郡三ヶ日町摩訶耶(現・浜松市)◎サドボシ(佐渡星) 富山県下新川郡經田村濱經田(現・魚津市)
◎ヤザキ、ヤザキサン(矢崎さん) 新潟県佐渡の夷地方(佐渡市両津夷)
◎ホクサンボシ(北山星) 新潟県佐渡市田野浦

出典:北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房

いずれも、その地域からカペラを見る方角にある山や地名が、星の呼び名となっている。よくある命名パターンなのかもしれない。


カペラの呼び名は他にもある

位置関係に基づいて、プレアデス星団(M45)=「スマル/すばる/昴」と関連付けられた呼び名も、バリエーションが多く、様々な地域に伝わっているようだ。
プレアデス星団は、漁や農業の目印として重要視されることも多い。

 すまるのあいてぼし(相手星) 壱岐・丸亀
 同   あいかたぼし(相方星) 志度・引田・赤穂
 同   あらて(新手) 山口県仙崎・萩・須佐・島根県益田市
 同   すけぼし(助け星) 福岡県津屋崎
 同   うけサン(受けサン) 赤穂・大三島
 同   かたぼし(傍星?) 愛媛県海岸一帯
 同   かわり星(代り星) 同
 きたずまい(北すまる?) 姫路市妻恋
 おきすまる(沖すまる) 島根県温泉津

野尻抱影 (1973) 『日本星名辞典』 東京堂出版
2023年11月8日20時の北東の星空(京都府)

カペラの少し東にあるプレアデス星団は、暗い星の集まりで、ぼんやりした光の塊のように見えたり、条件が良ければその中に星を数えることもできるが、カペラほど明るく輝いているわけではないので、近いタイミングで上ってくるものとしてセットで捉えられていたのかもしれない。

インターネット上で、カペラの呼び名として「虹星」というのも目にすることがあるが、私が持っている書籍『星の文化史事典』『日本の星名事典』『日本星名辞典』では確認できなかった。
ソースは明らかでないが、地球大気の影響で、光の色が虹のように目まぐるしく変化することが「虹星」の由来とされているようだ。
カペラを夜空で見たときの実感としては、よくわかる表現だ。


空に能登星を見てみよう

この記事を書いている2023年5月、能登星は日付が変わる前に北西へと沈んでいくだろう。(地域によって違いはあるが京都府の場合)
西の空に明るく輝く金星を見つけたら、その右側に能登星を探してみよう。

2023年5月8日20時の北西の星空(京都府)


参考文献

出雲晶子 (2012) 『星の文化史事典』 白水社
北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房
野尻抱影 (1973) 『日本星名辞典』 東京堂出版


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