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アニメ『君は放課後インソムニア』第5話「飛び上がり星」星の名を読み解く
この記事の趣旨
アニメ『君は放課後インソムニア』のサブタイトルの星を読み解く|ゆえ|note
第4話のサブタイトルは「飛び上がり星 りゅうこつ座カノープス」だった。
劇中で誰かがジャンプしていたわけではないが、飛び上がるような高揚感や躍動感、勢いがあったと思う。
固有名「カノープス」は、トロイア戦争の時の水先案内人の名前に由来するので、もしかすると、劇中で天文部の二人が水辺に導かれた様子から選ばれたサブタイトルなのかもしれない。
りゅうこつ座カノープスとは
りゅうこつ座α星カノープスは、太陽を除くと、おおいぬ座α星シリウスに次いで全天で2番目に明るい恒星だ。
日本の多くの地域からは南の空の低いところに見えるが、南の地域に行くほど空の高いところに見えるようになる。
大気差も含めると、北緯約38度がカノープスを見ることができる北限となる。
本来の光の色は白いのだが、空の低いところに見えるため大気の影響が大きく、夕焼けが赤くなるのと同様に赤みがかって見えることが多い。
中国では「老人星」「南極老人星」「南極寿星」とも呼び、日本の七福神の寿老人や福禄寿の化身とされる。
「見ると寿命が伸びる」と言いながら見ることも多い。
第7節 りゅうこつ座
10 動きにもとづく星名
7 トビアガリボシ
桑原昭二氏が和歌山県日高郡美浜町浜ノ瀬で「明るい星さんで、朝三時から四時ごろ、とび上るように出ようとする(9月初)」と記録[1982]。トビアガリは、一般的には明けの明星を意味するが、この場合は九月初とあることからカノープスと思われる。
「トビアガリ」は明けの明星(朝に見える金星)を意味することが多く、索引から確認した他の「トビアガリ」「トビアガリボシ」も全て明けの明星だった。
カノープスの動きを考えると、地平線・水平線からピョコッと出てくるイメージの呼び名なのだろう。
カノープスの他の呼び名
カノープスは見づらい位置にあることが多いため「よく見る馴染み深い星」というのとは少し違うかもしれないが、よく見えないからこそ印象的なのかもしれない。
様々な呼び名が伝わっており、書籍に情報が多く、とてもまとめられないが、いくつか気になったものをピックアップしておこう。
◎メラボシ(布良星)
房総の地名(千葉県館山市の布良)と直接関係するとは限らず、「休む」という意味を含んでいるらしい。「見えると風が強くなる・時化る」など漁師が天気の予知に使っていた。
◎ニュウジョウボシ(入定星)
坊さんが自ら生き埋めになり「死んだら星になって出るが、その星が見えたら海が荒れるから船を出すな」と言い残したという。
◎ミカンボシ(蜜柑星)
◎ヒガンボシ(彼岸星)
見える季節に由来する呼び名。「紀州の蜜柑星」という、見える方向の地名+名産品+季節を合わせたような例もある。
◎ドウラクボシ(道楽星)
◎オーチャクボシ(横着星)
あまり高度が上がらない様子を形容した呼び名。
21 カノープスの星名を考える
カノープスの名前・伝承の事例から、次の点が明らかになった。
❖それぞれの地域の南に相当する地名やその地域の産物、さらには動きが反映された多様で豊かな名前が形成された。その形成は地域に根ざしたものであり、限られた範囲でのみ伝承される固有のものであった。
❖特定の地域に関連しない例えば「南のひとつ星」等の名前が広範囲に形成されるということはなかった。
空に飛び上がり星を見てみよう
見える時期は冬に限られる。
高度が低いため、南中時刻前後を狙いたい。
おおいぬ座や冬の大三角からたどる探し方があるが、個人的には、オリオン座の三つ星の下の小三つ星が見えたら、小三つ星の並びを下に延長してみてほしい。
地平線・水平線ギリギリまで見渡せるところでないと、見つけるのは難しいかもしれないが、冬に見晴らしの良いところに行くことがあったら、探してみよう。
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参考文献
出雲晶子 (2012) 『星の文化史事典』 白水社
北尾浩一 (2018) 『日本の星名事典』 原書房
野尻抱影 (1973) 『日本星名辞典』 東京堂出版