
おやすみボックスfrom Ⅼover
わが国でも“おやすみボックス”がついに解禁された!
が、それがなんなのかわたしにはよくわかっていない。
さっそく届いた小包みを開けてみると、きらきらと輝く素晴らしい立方体が出てきた。
わたしというか俺は「こんなところに税金使いやがってクソが」と少々キレながらおやすみボックスの無機質な声色を聞く。
「はじめまして。こちらは、おやすみボックス、オペレーターのイズモと申します。どうぞマイナンバーカードを挿入してください。」
俺はしぶしぶ財布からカードを取り出し。おやすみボックスの細長く小さい穴に挿入する。
おやすみボックスは「砂月篤さんでよろしいでしょうか」と問いかける。
「はい」と篤は答える。
「はー。とりあえずマニュアル通りに進めるのはここまでにしといて、自己流に説明していくね。」とイズモは一昔前のカリスマ店員のように答える。
俺は先ほどまでの役所的な言葉遣いから、急に変化したイズモのことを少し不気味に思った。
「おやすみボックスは政府が作った、『走馬灯保存システム』の一環ていうのはご存じ?」
「え、知らない」と俺は答える。
「そか、まあそうだよね。篤君ニートだし、この家インターネット環境もないみたいだから知り得ないはずよね。」
「ははは。悪かったな、俺にもいろいろ事情があるんだよ」
「まあとりあえず、話を戻すね。このおやすみボックスは最終的に君が死ぬときに見る走馬灯を作成するために利用されます。」
「ほう」
「走馬灯には二パターンあって、自分の未練や後悔、恨みなど負の要素ばかりの見えるものと。子供が生まれたときだったり、恋人と幸せだった時など幸せなものばかり見えるものがあることが分かったんだ。」
「なるほど」
「それでね、終わり良ければ総て良しっていう言葉があるように、幸せな走馬灯をみれるかどうかが最終的な人生の幸福度を現すのではないかという論争が生まれだしたんだよ。」
イズモは得意げにべらべらとしゃべり続ける。
「まあ、全世界の科学者たちが、どうやったら、幸せな走馬灯を見ることができるのかっていう問題に取り組みだしたんだよ。それですぐに、『走馬灯をシミュレーションしよう』って思いついた人がいて、それの最新版が『おやすみボックス』だってわけ」
これがアニメだったら、イズモはギャルの見た目をしてるんだろうなーと俺は思った。
「それで、結局どうやって使うんだよ。」と俺はイズモに投げかける。
「よくぞ聞いてくれました!!これから篤君には毎晩寝る前に今日良かったことをおやすみボックスことイズモに話してもらいます。」
「それが『走馬灯の保存』とどう関係があるんだよ」
「走馬灯は今まで経験してきたことを圧縮して、死ぬ寸前に再生してるから、物事を良いか悪いか、事前に判断しておくことで、良い走馬灯をシミュレーションできるんだ。それを毎日アップデートすることで、死ぬ寸前に、いい事を思い出して良い走馬灯を見ることができるようにするということだね。」
「よくわかんないや。それに、いいことなんて一つなんてないさ。」と俺は答える。
「なんで?私がいるのに?わからない?
水香だよ」とイズモは答える。
その瞬間、ボロアパートだというのに篤は金切り声をあげ、おやすみボックスを経年劣化の激しいフローリングにたたきつけた。そして何度も何度もボックスをたたきつけ、手に血がにじんでもお構いなしに、破壊した。
しばらくすると政府の職員が、おやすみボックスについていた安全装置によってボロアパートまで駆け付けた。
俺はボロアパートの壁に頭突きをして絶命していた。
数か月後
篤の一件は不審事故として処理されたが、現場から見て、おやすみボックスが引き金になったに違いない現場だったので、おやすみボックスオペレーターのイズモこと水口水香が任意で事情聴取を受けることとなった。
「君は、篤君と面識があるよね」と刑事は尋問を始める。
「はい。付き合っていました。」
「おやすみボックスのオペレーターと対象者は面識があってはいけないという、規則は知っているはずだね。水口水香そしてお前は砂月篤に対する傷害罪で2年服役していたな。」
「はい。そもそも、私は篤君のオペレーターをするためにこのおやすみボックスの求人に有森イズモとして応募しました。彼に逃げられてしまって探す手立てがなかったからどうしようもなくて、でもおやすみボックスは幸福度指数の低い傾向にある犯罪被害者に優先的に与えられるって知って、これだと思ったんです。あと事務所のパソコンをちゃちゃっといじって見事に篤君の担当に成れました」
「なるほど、キモイね」
「ははは、よく言われます」と水香はコロコロと笑った。
砂月篤の自殺に関連して彼女を裁くことのできる法律はまだない。
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