会いに行けるアイドル|0歳児の入院生活、はじまる
うーちゃんが生まれてあと11日で4か月目に入る。そろそろ首がすわりそうで、手足はクリームパンのようで、新生児の頃の面影はどんどん消えていく。
よく笑い、よく喋るようになった。「あっくー」「ふいー」「ひゅーぅ」など、クーイングと呼ばれるそれらは言葉になる手前の鳴き声のよう。郷に入っては郷に従えで自分も一生懸命「うっくー」を唱え続ける。
アイドルのライブなんかと同じで、新生児だった頃はまったく目も合わせてくれず泣いてばかりだった子が「目を合わせてくれた!」「笑ってくれた!」「手を振ってくれた!?」と、だんだんレスを返してくれるのが嬉しい。今では握手もしてくれる(口に入れたべちょべちょの手で)。
そんな話をデレデレとしてしまう自分に驚くけど、先輩パパからは「今のうちだよ」と釘を刺される。彼ら曰く、父親は真っ先に透明人間になるらしい。
うーちゃんは明日から入院する。10日間。
生後数日経った頃から右耳に赤いあざができて、最初は右向きにばかり寝るから跡がついたのかな?と思っていた。
それが苺状血管腫(乳児血管腫)という、未熟な毛細血管が増殖してできる腫瘍だと分かったのは1か月検診でのこと。原因は未知で、乳児の1%強に起こるらしい。できる場所もそれぞれで、目元なんかだと失明の危険性もあるそうだ。
ただ、悪性ではないし痛みも痒みもない。そして我々夫婦を安心させたのは、これが生後3か月〜6か月の間に活性化・肥大した後は徐々に引いていき、就学前あたりまでにほぼ消える病気だということ。
最近までは放置するのが一般的だったようだが、
「今はレーザー治療に加え、大人用の血圧を下げるシロップが苺状血管腫に効くことが数年前に判明して、シロップ投与も効果的です。積極治療した方が跡が残りづらくなるんで、シロップやりましょう。それでも跡が残ったらレーザーっていう手もあるし」
医者の診断は明快だった。
ただしシロップの量は多すぎると赤ちゃん自体の血糖値を不必要に下げてしまうので、副作用が出ないかを観察したい。10日間ほど入院して投与量を管理していきましょう。問題なければまずは半年間、この方法をご自宅でも続けてほしい。
という話が続き、覚悟を決めた。
9月にその診察を受けたときはまだ血管腫の範囲も小さく、これがもっと大きくなるなんて信じられなかったが、いつの間にか病名のとおり苺のように凸凹になり、6センチほどに肥大した。耳を取り囲んで鶏のとさかが生えたようにも見える。
記録のために経過を月1で撮影していたが、今の患部は痛々しく、かなりグロテスクにも見える。たとえていうならAKIRAに取り込まれそうな鉄雄みたい。だが、症状と予後を知っているから恐怖感も不気味さも感じないし、本人がケロッとしているのが何よりの救いだ。
いちばんの心配は、入院中、僕ら親が付き添えないこと。
面会時間を過ぎたらもう看護師さんに預けるしかない。Webに転がっている、赤ん坊を入院させた人たちの体験談は
「オムツが何時間も替えてもらえずウンチがカチカチになっていた!」
「泣き疲れてグッタリする我が子を見るのが辛すぎる」
など、かなり落ち込ませる内容だった。僕は読まないようにしていたが、妻はついつい読んでは不安に駆られていた。
一時的にでも、うーちゃんのいない世界に逆戻りする。それはまだ何とか我慢できると思う。なぜならうーちゃんは病院にいるから。会いに行けるアイドルだから。
だけど彼女が孤独を感じたり、誰にも構ってもらえない夜を怖がったりするのは、まだ早すぎる試練だ。病気は誰の責任でもないが、この治療法を選んだのは僕ら親なので、申し訳ない。
帰ってきたらまたいっぱいお喋りしようね。
そう書いてこの文章を締めたいが、なんだかそれも無神経な気がしてしまう。親にとっても試練だ。
2018.12.26追記:退院後の後日談を書きました。