副隊長たちの休日〜ウキ繭の場合〜
※こちらはスレッジ稚内さん投稿の短編ボイスドラマ「副隊長たちの休日」のその後を描いています。
リレー形式のお話になっています!
←前の話はこちら!|花調酔之奏《はなしらべよいのかなで》〜花酔譚(by 高橋朋さん)
ハナヨイとメイネが突然の腹痛に倒れ、成り行きで繭と買い物に来ることになった。
女と二人で買い物とかいつ以来だ……いや、したことあったか……? 過去に、予定を立てたこともあったかもしれないが。
「ま、急に行くことになっちゃったけど……服買いに行くんでしょ? せっかくだし見繕ってあげる」
「悪いな。……全く、あいつらせっかくの休日なんだからちゃんと体調整えとけよな」
渾身の演技により、デートがお膳立てされたとはつゆ知らず、二人はウキグモ行きつけの服屋へと足を伸ばす。
「その色の服、前にも着てたじゃない? こっちの服とかも似合いそうだけど」
ウキグモの選ぶ黒や灰色、といった地味な色合いの服は全て横に避けられ、対照的な白やベージュ風の色合いの服を合わせてくる。
「こういうのは汚れが目立つだろ」
「誰が任務や仕事着にしろって言ったのよ。これは休み用の服。貴方ったら、休みの日でも似たような服着て……。休みの日くらい、違った服を着て、頭を休みモードに切り替えるの。たかが服一枚と思って、適当に選んじゃダメよ」
「そ、そういう物か……」
1の発言量に対して、10や20以上の量で返されてしまい、ぐうの音も出ない。正直、服などは汚れが目立ちにくくて着回しがしやすいものでいいと思ってたし、仕事の日と休日とで服を着分ける発想もなかった。
「そういう物。たまには違う色を着てみると気分も変わるわよ」
改めて自分で鏡に向かって合わせて見てみると、案外悪くないかもしれない。
「ま、お前がそこまで言うんなら、たまには試してみるか」
「そうそう。たまには明るい色も着ないと。あまり渋い色ばっかり着てると老けて見えるわよ」
「……悪かったな、老け顔で」
繭は、くすくすと笑い声を漏らす。
服を見繕うとは言ってくれたが、まさか普段の着こなしのことから、仕事と休日の切り替えのことまで言われるとは。……本当、よく見てるよなコイツ。
この間のヤマネコ討伐の任務の時も、母親とはぐれた子供を託したあの一瞬だけで、自分の帰還の遅さに気がついてくれていた。その前は、ソラトの店の開店祝いとか子どもの出産祝いとか、色々相談にも乗ってくれてるし。どのアドバイスも的確で、外したことはなかった。細かいところによく気がつく。
「よお、副隊長さん。……珍しいね、女の人連れてくるなんて。もしかして、デート?」
「!?」
顔見知りの店員から、思いもよらない単語が飛び出して、思わず財布から小銭がこぼれ落ちる。チャリチャリと床へ散らばっていく小銭を繭がすかさず拾っていく。
「なにやってんのよ、ウキグモ」
「あぁ、悪い……ちょっと手が滑っちまって」
そんな様子を見て、店員は目を光らせる。
「ははーん、図星だねぇ? こんなかっこいい副隊長さんに、カノジョが居ないなんておかしいと思ったんだ。やー、ベッピンさんだねぇ」
「ち、違っ、別に彼女とかじゃなくて、仕事のどうりょ……グハッ」
繭の肘鉄が、ウキグモの鳩尾にクリーンヒットし、うずくまる。
「そうなんですよ〜。この人、いっつも同じような服買っちゃうから、たまには私が見繕ってあげなきゃって思って」
ごめんなさいね、とバタついた会計になったことを謝りながら、拾い上げた小銭を集めて、会計を進めていく。
「へぇ、しっかりしたカノジョさんだねぇ。幸せにしてあげるんだよ」
毎度あり、と服を詰めた袋を肘鉄の衝撃から復活しつつあったウキグモに手渡す。
(だから、彼女とかじゃねぇって……)
それを言うと、また謎に肘鉄を喰らうだろうと、ツッコミを心の中に留めておくウキグモであった。
服屋から少し離れた広場の一角にて、二人は先程のやり取りを振り返っていた。
「ああいうのは、適当に話合わせておけばいいのよ。変に取り繕ったら、根掘り葉掘り話聞いてくるでしょ?」
「だからって、お前、肘鉄喰らわすことねぇだろ……。……それに、恋人でもねぇのに恋人扱いされたら、嫌じゃねぇか? こうやって二人になったのも、たまたまで成り行きだし」
他人に話を合わせる事よりも、繭の気持ちを優先したという事を、言葉を選びながら打ち明ける。
「ふふっ」
「何がおかしいんだよ、こっちは心配してんのに」
慎重な言葉選びの結果、何故かクスッと笑われてしまい、ついツッコミを入れる。
「いえ、貴方ってどこまでも他人想いだなって。たまたま二人で寄った店で、知らない人に勝手に恋人扱いされたことで、私が傷ついたり嫌な気持ちになってたりしてないか、心配してくれたんでしょ。ありがと、大丈夫だから」
この人はいつもそうだ。自分の為より、誰かの為に動く。たまたま一緒に買い物することになっただけなのに、仕事中と変わらず気にかけてくれている。
「……分かってくれりゃ良いよ。あと、今日はありがとな。急に付き合ってもらって」
「いいのよ、別に予定無かったし。そうだ、あの二人、お腹痛めてたわよね……。胃薬でも買って持っていってあげたら?」
「メイネはともかく、カナデの野郎は、どうせよく分からんヘンな物でも食ったんだろうけど……。せっかくの休みが、腹痛で終わるのもアレだしな」
やれやれと肩を竦め、呆れたように言いつつもその足は商店街の薬屋へと向かっていく。それは繭も同じだった。
「どうした? 薬屋にも付き合ってくれんのかよ」
「言ったでしょ。私、今日予定無いのよ。せっかくなら最後まで付き合うわ」
「何だそりゃ。……まあ、いいや。ありがとな」
服屋から薬屋へ、と。何とも色気のない買い物デートを済ませ、メイネとハナヨイの所へ戻っていくのであった。