兄妹と父の日
アマネとカスミは、自分達の生みの親であるソラトとコハルが眠る墓の前で手を合わせていた。街の花屋で限られたお小遣いで買ってきた綺麗な花束が手向けられていた。
今日は父の日。もうこの世には血の繋がった両親は居ないが、毎年巡ってくる命日以外にも父の日や母の日にこうして花を手向け、手を合わせている。
親孝行する前に母は病に倒れ、父は戦火に巻き込まれ、命を落とした。こうして、祈りを捧げることが生みの親に対しての、せめてもの親孝行だった。
「お父さんもお母さんも……今は空にいてわたし達の事、見守ってくれているんだよね」
「ああ。今もきっとな」
よく晴れて青く澄んだ空を見上げる。新緑の匂いをまとった風が二人の間を吹き抜けていった。
「今の俺達にはウキグモさんや繭さんがいて、支えてくれている」
「そうだね、もう一人のお父さんやお母さんみたいな人だもんね」
もう一度、墓標に手を合わせてから街の方へと歩いていった。
「ただいま!」
「あ、繭さんも来ていたんですね」
家に帰ると繭が夕飯を拵えているところだった。繭は、やむにやまれぬ事情により自らの息子を手放さざるを得なかった過去がある。そういった経緯もあるからなのか、繭もウキグモ同様にアマネ達を本当の子どものように気にかけており、任務がない日など、合間を縫って時々この家に顔を出してくれる。
「あなたたち、お帰りなさい。そろそろご飯が出来るから、手を洗ってらっしゃい」
「分かったよ。繭さんの料理、美味いんだよな」
「褒めたって何も出ないわよ」
「いや、事実だぞ繭。俺も料理はするが、どうしても食えればいいってのが先行して、見た目とかが二の次になっちまうからな」
「まったく……」
肩を竦めて苦笑いを浮かべる繭の横でハッハッハと笑いながら、ウキグモは手放しに褒めている。彼の前に兄妹が後ろ手に横一列に並び始めた。
「ん? どうしたお前ら……」
兄妹がパッと目の前に出したのは、綺麗なリボンでラッピングされたお酒の瓶と黄色のカーネーションの花束だった。
「いつもありがとう、ウキグモさん」
「わたし達の事、いつも見守ってくれてありがとう! これからもよろしくね」
「お前ら……」
呆気に取られながらも、兄妹からのプレゼントを受け取る。
「あら、ウキグモったら、泣いてるの?」
「は、はぁ!? な、泣いてねぇよ! こんなプレゼントくれるなんて、全然思ってなかったから……。ちょっと驚いただけだ……」
取り繕う言葉を紡いではいるが、目尻には確かに光るものがあり、慌ててそれを手で拭った。
「そういえば、今日は父の日だったわね。やるじゃない、あなた達」
「ウキグモさんは俺たちにとって、もう一人の父さんみたいな存在ですから」
「そうだよ! もちろん、繭さんもお母さんみたいな人だからね!」
穏やかな笑みを浮かべながら、アマネは言い切る。その横ではニコニコと満面の笑みのカスミがいる。
「はぁ……お前、恥ずかしげもなく……。いや、でもありがとな」
「ふふ、ありがと。さ、ご飯が出来たわよ。冷めないうちに食べましょう」
たとえ血が繋がっていなかったとしても。受け継がれた灯が小さなものだとしても。
繋ごうとする人がいる限り、消えずに繋がって、道を照らし、未来を照らしていくのだ。
そう感じた父の日の夜だった。
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