【ヴァサラ戦記二次創作】ウキグモ外伝⑤―副隊長就任初任務編―
アマネが生まれて、約5年が経ったある日。
「本日を以て、九番隊隊員ウキグモを九番隊副隊長に任命することとする」
軍本部の大広間に覇王ヴァサラの声が響く。腹の底にまで届く低い声は、改めて背筋を伸ばすのに充分な威厳を含んでいた。
「謹んでお受けします」
「フフ、おめでとうウキグモ君。これからも頑張ってねぇ」
不敵な笑みを浮かべながら、九番隊隊長ロポポが祝福する。
「まあ、堅苦しいのは抜きにしてこれからも国の為民の為、精進してくれたらそれで良い!」
と、ヴァサラは豪快に笑い飛ばした。
副隊長就任から僅か一週間後のこと。事件は突然舞い込んできた。
ここはアヤメの街。普段はこじんまりとした穏やかな街だ。夕暮れ時には、作りかけの夕食の匂いが漂っていたり、人々の楽しげな話し声が聞こえてくる、どこにでもある平凡な街だ。だが、今となっては血や硝煙の臭い、怒号や悲鳴が飛び交う、凄惨な場となっていた。
「六番隊は負傷者の救助を! 一人残らず助けるのじゃ!!」
ヴァサラの号令により、軍拠点に待機していた医療・科学担当の六番隊が一斉に治療に取り掛かる。今も次々に運ばれてくる怪我人達を優先順位を決めながら、手早く治療を進めている。
「三、九番隊は住民の避難と保護! 十一番隊はヤマネコの討伐! その他の隊もサポートをするのだ!」
「『ヤマネコ』の野郎、普通に暮らしている奴らの生活を奪って何がしたいんだ」
ウキグモは動ける住民の避難誘導を任されていた。副隊長就任後初の任務は、テロ組織『ヤマネコ』の討伐及び住民の救助活動となった。他の戦闘に向かえる隊も、討伐及び救助活動に順次駆り出されていき、周囲は一気に慌ただしい様相を呈している。
「さあねぇ。『死』が救済、なんて言ってる奴らだから……理解するには、ちょっと難しい所もあるかもね」
ロポポは肩を竦める。
近頃、勢力を強めているテロ組織『ヤマネコ』は『聖戦』と称したテロ行為を行い、『救済』を行っているのだという。一端に戦える者が揃っている上、神出鬼没であり、アジトの所在さえ掴めていない、厄介な組織である。今回のテロも、何の予告もなくゲリラ的に起きたものだという。
「うわぁっ!!」
少年が、夕暮れで視認性の悪くなった道端に転がる小石に躓き派手に転ぶ。痛みに喘ぎ、すぐに立ち上がることが出来ずにうずくまってしまう。
「うぅ……痛い、ママぁ……」
「さあ、救済を! 死は救済なのだ!」
背後からヤマネコの組織員が剣を振りかぶり、少年に斬りかかろうとする――、
「やめろッ!!」
剣と剣が激しくぶつかり合い、バチバチッと火花が飛び散った。少年とヤマネコ組織員の間にウキグモが割って入ったのだ。
「神聖な儀式を邪魔するな! これは救済なのだよ!!」
「ふざけんな、そんな救済は誰も求めてねぇ!」
ギリギリと鍔迫り合いしてる中に、聞き慣れた羽音がこちらに近づいてくる。
「翅の極み:揚羽蜻蛉」で背中に蜻蛉のような翅を生やした繭だ。
「大丈夫? この人が戦っているうちに早く!」
「繭、そのチビを頼むわ。ついでに母ちゃんも探してやってくれると助かる」
「ええ。貴方こそ無理しないで」
繭は少年を抱き、拠点の方へと飛び去っていく。
「よくも儀式の邪魔をしてくれたな!」
「まあ、儀式だの救いだの、よく喋る連中だな……しばらく寝といてくれ」
やれやれと肩を竦めながら、ウキグモは敵を弾き飛ばし、剣を構え直す。
「雲の極み『流水行雲』……浮浪雲!」
弾き飛ばされた敵も、剣を構え直し攻撃に備えるが想定していたタイミングで攻撃が来ず、防御が遅れる。
剣に霧状の雲を纏わせ、間合いや太刀筋を読みづらくしたウキグモの攻撃がクリーンヒットし、その場に倒れる。
「鮮やかだねぇ」
「救いだの何だのと、お上の思想をそのまま繰り返してるだけの連中なんかに負けねぇっすよ」
そう言い残すと、次なる戦いの場に身を投じていく。住民の避難誘導は他の隊員も総出で行っているが、まだ完了という訳ではない。取りこぼしがないか、よく確認しなければ……。
「あれは……」
よく行く飲み屋の店主が、店の前でうずくまっていた。急いで駆け寄るとヤマネコの襲撃を受けたのか、腹部から出血をしている。
「おい! 大丈夫か!?」
「オレの事ぁいい、……娘がオレを庇って変な奴らに捕らえられちまった……。アイツが何したってんだ……、痛たた……っ」
街を襲うだけでなく、人質も取るとはどこまで卑劣なのか、と怒りが湧きながらも、
「分かった。直に助けが来るから、もう少しの辛抱だ。娘さんは必ず助ける」
近くの隊員に救助の要請をし、ウキグモは捜索を開始した。
(まだそう遠くは行ってないはずだ……)
店先には比較的新しめの足跡が街の外へと伸びており、ヤマネコと人質はその方向へと向かったと推察される。――ふと、伸びた足跡の先に地面になにかキラッと光るものが見えた。拾い上げてみると、シンプルながらも、可愛らしい小さめのパールのイヤリングの片割れだった。
いつも明るく、活発な飲み屋の娘のものだろう。思わぬ手がかりだと思いつつも、確証といえるものでも無いため、何とか間に合ってくれという思いで急ぐ。
「痛っ! あんま引っ張らないでよ!」
「黙れ! 裏切り者めが! お前にはカラカル様の裁きを受けてもらうからな!」
後ろ手に縄で縛られた女性が、街の出入口につけた荷車へ強引に載せられようとしていた。何とか間に合ったようだ。
「お前らか、飲み屋の娘さんを攫っていったのは」
想定外よりも早くに場所が割れた事にヤマネコ構成員は、舌打ちをする。
「チッ、何故ここが……!」
「大丈夫だ。見ろ、愚かにも敵は一人。我々だけで充分倒せる」
もう一人の構成員は余裕そうに、パチンと指を鳴らす。ザッと十数人ほどの構成員が各々の武器を持ち、ウキグモを取り囲んだ。
「……そう、簡単には返してくれねぇってか」
一つ息を吐き、剣を構える。
「雲の極み『流水行雲』……五里霧中」
口上を唱えると、ウキグモの身体に深い霧が掛かり、夜道の暗さも相俟って視認が難しくなる。
「ど、どこに消えた!?」
「遅い! 雷騰雲奔!」
敵が揃って、ウキグモを見失っているうちに包囲から抜け出し、すれ違いざまに稲光と共に雷撃を纏った攻撃を数人に浴びせ、斬り伏せる。
「そこかっ!」
何とか姿を捉え、剣を振り回す敵だが目測を見誤り、剣は空を切る。
「ハズレだ」
その隙に背中に回り込んだ、ウキグモは容赦なく斬撃を浴びせる。
(まるで統率が取れていない。テロ組織といえど、所詮は急造の戦闘集団か)
自身の極みで、完全に惑わされた敵達は応戦するも全て見当外れの攻撃ばかりで、順調に戦力を減らしていっている……その刹那。
弓矢が放たれ、眼前に迫って来ていることに気づきすんでのところで剣で弾く。街路樹に登り、そこに身を潜めていたらしい。
「今だッ!」
不意打ちに隙が生まれてしまい、構成員のナイフ攻撃が右腕に直撃する。
「しまっ……!」
鋭く引き裂かれると同時に、身体が痺れ、剣を取り落とす。
「痺れ毒か……厄介だな」
剣を拾おうとするが、身体が言うことを聞かずに膝をついてしまう。
「ハハハッ、無様だな! 息巻いた割にはあっさりじゃないか」
「はっ、剣に痺れ毒塗って戦うようなやつに……言われたかぁないね……」
相手の嘲笑を意に介さず、無理矢理身体を動かし、剣を両手で杖代わりにして立ち上がる。
「もうやめて……!」
縛られている飲み屋の娘が、悲痛な叫び声をあげる。
「親に捨てられて、ヤマネコに拾われて……。でも、訓練が辛くて逃げ出したの。だけど、どこにも行く宛てなんか無くて、あの店に拾われて……。食べさせてくれたご飯が美味しくて、自分もこんなご飯作りたいってなって……。けどっ! 私のせいで"父さん"が襲われて……! ああ、これは、逃げ出した時の罰なんだって……。人並みの幸せを手に入れちゃ、ダメなんだって……。だから、もう、いいの……私のせいで誰かが傷つくのは」
大粒の涙を溢れさせながら、戦いを辞めるように懇願した。
「自分が掴みかけた幸せを、諦めるな……! 人は皆幸せになる権利があるだろ! 誰かに奪われていいもんじゃない。奪われない為に、俺たちがいる……!」
「そういうこった。こんな外道に奪われていい道理はねェってこったァ!」
聞き覚えと馴染みのある、腹の底に響くような低音の声が響く。
「調の極み『拈華微笑』……的了拶 一円相!!」
派手めの戦闘衣装を身にまとい、赤色の帯をはためかせながらヤマネコ構成員を薙ぎ倒していくのは二番隊副隊長のハナヨイだ。元々視力が悪く、視覚に頼らない方が力が出せるということで両目を鉢巻で覆っている。
ハナヨイの周りには、五人ほどの構成員が襲いかかってきたが、それらを全て足音や気配で察知して、斬り捨てていく。
「遅くなって悪ぃな、ウキグモ」
「カナデ! 助かった……」
かつて同室だったよしみから彼の幼名でもある奏丸を省略した呼び名を紡ぐ。
「繭はんが、ウキグモはんの帰りが遅いからって報告くれてなぁ。まあ、ヤマネコども相手に一人でよぉ気張ってくれはったわ。あとは任せとき」
三番隊副隊長のメイネまでもが、援軍に現れ、居酒屋の娘を捕らえる構成員に血のような紅い剣を抜きながら、ゆらりゆらりと近づいていく。
「メイネまで……」
「おい、動くな! 動くとこいつの首を刎ねるぞ!」
後の無くなった、構成員は娘の首にナイフを近づけて脅す。全く動じないどころか、メイネは呆れたように肩を竦めた。
「黙っとけ。悪役のセリフにしても、センス無さすぎやろ。もう、アンタは終わりや。――魅の極み『赫』……斬血!」
「なんだこれは、身体が熱……ぐぁぁぁあ!!!」
対象の血を操作する極みの力で、敵の体内の血の鉄分から刃を生み出し、中から敵を切り裂く。
「ほら、これであんさんは自由や。避難所にお父上もおるよ。命に別条はないそうやで」
縄をサッと解き、娘を自由にする。ようやく自由になれたからか、それとも父親が無事だと分かったからなのか、ヘナヘナと座り込んでしまう。
「そ、そうですか……良かった……」
「全く、お前さんも無茶するなぁ。一人で人質を救いに行くなんてな」
「援軍を待ってたら、それこそ相手の思うツボだからな。……でも、本当に助かったよ。ありがとな、二人とも」
「まあ、今度お酒でも奢ってくれたらエエよ。住民の避難は完了したし、ヤマネコ達も鎮圧に向かってるしなぁ。……ほな、娘さんは私と一緒に避難所に連れていきますわ。」
メイネは地面に座り込んでしまった飲み屋の娘に手を貸して、避難所へ案内する。
「お前がいつも飲んでるのは白湯だろうよ……」
ふっと笑いながらも、痺れが回ってきた身体を支えきれず片膝をついた。それを察知したハナヨイは即座に肩を支える。
「さ、お前さんは治療してもらってこい。あとは俺たちでやっとくから」
「ああ……、悪いな」
ヴァサラ軍の拠点に併設された治療所には、軍関係者を始め、避難してきた住民が所狭しと収容されている。主に六番隊の隊員たちがひっきりなしに治療にあたり、他の隊所属の隊員達もサポートに動いている。
「まったく、貴方は無茶しすぎよ。一人でヤマネコに立ち向かおうなんて。私が気づかなかったら、やられてたかもしれないじゃない」
「援軍待ってる場合じゃなかったし、仕方な……痛てててて! おい、もうちょい優しくしろって!」
治療のお手伝いをしている繭が右腕に巻く包帯をわざとキツく締めた為に、ウキグモの悲鳴が治療所に響く。
「大丈夫よ、痺れ毒が身体に回ってるだけで怪我自体は軽傷だったし」
「そういう事じゃ……」
「こちらから悲鳴が聞こえたんですが……ああ、ウキグモさんじゃないですか! 大丈夫ですか!?」
八番隊のジャンニが心配して、駆けつけて来てくれた。彼もまた民間人の怪我の治療及び、今回の騒動のカウンセリングを担当しているらしい。
「ほれみろ、ジャンニが誤解して寄って来たじゃねぇか。余計なことさせんな。悪いな、コイツが優しくしてくれねぇから」
「貴方が無茶するからでしょ!」
「ま、まあまあ……二人とも」
ジャンニが二人の間に挟まれて、あたふたし始めた所に、一人の少年が軽い足取りで近づいてきた。
「あっ! さっき僕のこと助けてくれたおじちゃんとお姉さんだ!」
「おう、あの時の坊主か。母ちゃんには会えたか?」
「もう、いきなり走ったら危ないじゃない! あら、もしかしてあなた方が……この子を?」
少年が答えるより先に、母親と思しき女性が現れ、少年のそばに寄りながら軽く会釈をする。
「ありがとうございました。この子のことを助けてくださって……」
「助けてくれてありがとう! 僕も大きくなったら、ヴァサラ軍になりたいなぁ」
キラキラとした憧憬の眼差しでウキグモ達を見つめる少年に目線を合わせて、ウキグモは頭をポンポンと撫でる。
「いい心がけだな。まずは自分の母ちゃんとか大事な人を守れるように、強くなれ。身体も心も、な」
「うん、分かった!」
少年は力強く頷く。母親は深くお辞儀をしてから、少年を連れて去っていった。
「ああ、ここに居た! オレの娘助けてくれてありがとうな!」
続いて、飲み屋の店主がウキグモの姿を見かけるなりこちらに近づいてくる。
「怪我は大丈夫なのか? エラく派手にやられてたが」
「大丈夫大丈夫! めっちゃ血ィ出てたけど、そこまでひでぇもんじゃねぇってよ! ま、怪我が治るまで店は休業だがな」
ガハハと豪快に笑い飛ばす店主の影から、先ほど救出した店主の娘がおずおずと顔を出して、口を開いた。
「あ、あの……父さんも私も、助けてくれてありがとうございました。私がヤマネコを抜けなければ、こんなことにならなかったんじゃないかって……。捕まった時は死んじゃいたい気持ちだったけど……あなたの言葉で目が覚めました。父さんと料理作りたいし、お店も盛り上げたい! それが私の今考える『幸せ』かなって」
娘の瞳には、絶望ではなく、希望の光が宿っているように感じた。
「ああ、頑張れよ。また飲みにくるからな。あ、そういやこれはお前さんのか?」
思い出したようにポケットから小さなパールのイヤリングを渡す。
「あ、ありがとうございます! これ、父さんからのプレゼントだったので……。よかった……」
「何から何まで世話になっちまったな。今度来た時は、腕によりをかけてご馳走してやるよ。いつでも来てくれ」
店主とその娘は、軽く会釈を済ますとその場を立ち去った。
「へぇ、あの子を立ち直らせた言葉って何かしら。ちょっと気になるわね」
「きっと力強い言葉だったに違いないですよ!」
「俺は一言一句知ってるぜ、何せちょうどその場面で現れたからな」
繭とジャンニが少し盛り上がりを見せ始めた所で、ハナヨイが鼻高々といった様子で現れる。
「え、聞きたいです!」
「カナデ、教えなくていいぞ、小っ恥ずかしいから。……っていうか、避難誘導はもう終わったのか?」
「もうとっくの昔に終わったで。ついでに、ヤマネコの制圧も。アイツらが深い森の奥に消えていくのを偵察部隊が目撃したみたいや。アジトが割れればそこを叩くつもりやろね」
進捗状況を報告しながら、メイネも登場する。
「そうか……、ま、任務が終わって何よりだ。みんなおつかれさん」
「それはそうと、ウキグモはんはどんな口説き文句を言うたんや、教えてぇなハナヨイはん」
話題が逸れたと思って安心していたウキグモはガクッとずっこける。
「口説き文句じゃねぇから! 言うなよ、カナデ」
「なんやそれ、フリってやつ? 押すな、押すな、絶対押すな〜ってやつ」
メイネはクスクスと笑いを堪えている。
「違ぇから!」
「別に恥ずかしいことでもねェだろ。えーと、確か……」
結局、ハナヨイによって一言一句違わずバラされたとかいないとか……。
ヤマネコ討伐任務から帰還し、束の間の休暇を貰い、またサルビアの街に戻った。というのも、副隊長就任祝いがどうしてもしたいとソラトから手紙をもらったからだ。
任務終わりには、ほとんどの確率で机の上に手紙が置かれていた。
(本当マメだよな……)
ソラトだって、仕事に育児にと忙しいはずなのに自分のことを思って手紙を書いてくれている。
自分はというと、そんな器用なことも出来ないので非番の日などを活用して会いに行って直接語らう。それを手紙の返事の代わりとしていた。
机の上にはたくさんの料理が並んでいる。もちろんコハルの手作りばかりだ。
「わざわざありがとうな、こんな料理まで用意してもらって」
「いいんだよ、僕もコハルも、アマネもしたいって言ったからさ」
「ふくたいちょう、おめでとう!」
5歳になったアマネは屈託のない笑みを浮かべて、小さな花束を渡す。
「アマネってば、朝からアンタが来るの楽しみにしてたんだよ。いてもたってもいられなくてずっとソワソワしててさ。花でも買ってきたらって、自分で選ばせてやったんだ」
「だって、おじさんはおれの『ししょー』だからな! 剣の! 早くホンモノの剣を持ちたいなー」
「まだお前に剣は早いよ。だが、飲み込みは早いな。これ食べ終わったら、また教えてやる」
「ホント!? やったー!」
街に帰ってきた時限定で、アマネに木刀を持たせて、剣の修行をさせていた。
「運動神経はアンタに似なくて良かったな、ソラト」
「はは、本当だね。僕は運動からっきしだから。けど、いつかアマネが大きくなった時に持ってもらう剣を作ることは出来るから。まだまだ腕を鍛えなくちゃね」
「将来は、この子もヴァサラ軍とかになんのかねぇ。まあ、この子がやりたいことやってくれればそれでいいけどね」
――夕食を食べ終わった後に、アマネの修行に付き合った。わずか5歳だが、飲み込みが早く振りも良い。
「お前は筋が良いな。……アイツと手合わせさせたらどっちが勝つんだろうか」
「アイツ? アイツってだれ?」
「ん、ああ。軍で教えることになったガキがいるんだけどな。素直なお前と違って、生意気で意地っ張りで……だけど、戦いのセンスがあるし、何より家族思いで努力家だ」
ふとした呟きから、任務の合間に剣を教えているセトのことを話すことになった。
「そうなんだ……そいつといつか戦ってみたいな!」
「もうちょい大きくなったら、紹介してやるよ。……さ、もう夜も遅いし、風呂入って寝るぞ」
親友の仕事に家族、そして自分自身の出世の道。事は全て順調に進んでいた。油断はしていない……が、全ては上手く行くだろう。誰しもがそう思っていた。
――この時までは。