チロル堂の「まほう」の素晴らしさ
チロル堂は、奈良生駒でスタートした駄菓子屋です。2022年のグッドデザイン大賞も受賞しているので、名前は知っているという人も多いかもしれません。このチロル堂の仕組みや立付けが、ほんとに素晴らしいので、一人でも多くの人に知って貰ったほうがいいなと思って、大した力にはなれないかもしれないですが、このnoteを書いてます。
チロル堂は色んな子供たちが集う駄菓子屋なのですが、「まほうの駄菓子屋」と称してます。何が「まほう」なのか。この「まほう」が素晴らしい仕組みなのです。
チロル堂には、子供たちが100円でトライできるガチャガチャが設置されています。ガチャガチャの中身は「チロル札」と呼ばれる店内通貨です。これが最大3枚入っている。子供たちは1チロルで100円分の駄菓子や、500円のカレーが食べられたりします。子供たちは100円払えば、絶対損することはなく、何かしら自分の意思で何にチロルを使うかを選べます。
100円支払って、100円以上の何かに交換できる。ここに「まほう」があるわけです。この「まほう」は、大人たちの「寄付」によって成り立っています。この「寄付」の仕組みにも一工夫があります。チロル堂では、「寄付」とは呼ばず「チロる」という言葉を使っています。
チロル堂は夜は居酒屋になったりするのですが、その居酒屋での飲み食いが、「チロる」ことに繋がったりします。サブスクで毎月いくらかを「チロる」ような仕組みも用意されています。
チロル堂の「まほう」が優れているのは、この仕組み自体を「まほう」と呼んでいることも含め、所謂「寄付」の仕組みに組み込まれている寄付する側と、される側みたいな構図を曖昧にしているところだと思います。
子供たちが100円を払って、チロル札を使って、自分でそれを何に使うかを選べるようにしているのも素晴らしいなと思います。
子供食堂が駄目ということではないのですが、「無料で食事ができる場所」という立付けは、そこに足を運ぶ子供たちの家庭には何かしら問題があるのではないか、という視線を招き入れてしまうこともあります。子供食堂をやっている人たちは、純粋な利他の精神で運営されているとは思うのですが、どうしても構図としては支援する側、支援される側をあぶり出してしまぅったり。
チロル堂の「まほう」では、大人たちの「チロる」が、子供たちのどんな選択に変換されたかは分からないようになっています。また、子供たちも「駄菓子屋」に普通に遊びに来ているだけです。その中には家庭に問題を抱えている子もいるかもしれない、ただ純粋に駄菓子を買いに来ている子もいるかもしれない。そこもぼやけるようになっている。
チロル堂が挑戦しているのは、健やかな「利他」の在り方の模索なんだろうなと思うのです。(他の仕組みが「健やか」ではない、という意味ではないので誤解されないように)
利他がややもすると、受ける側にとっての「負債」になったり、施す側と施される側に何らかのアンバランスが発生したり、それは本来の「利他」の精神とは違うものです。チロル堂は、「まほう」や「チロる」「チロル札」のような仕組みや表現を使うことで、利他を施す側と、施される側をぼやかしているのです。
先日、このチロル堂の3周年イベント「チロル堂から会議」に参加したのですが、そのイベントの中で、稀に集まった「チロル」が何に使われているかを明らかにして欲しい。透明性を上げたほうがいい、というような声も頂く、という話がありました。チロル堂の立ち上げ&運営者である吉田田さんや石田さんは「なんかそれは違うと思う」と仰ってました。自分が寄付したお金が何に使われているかを知りたい、という気持ちは分かります。昨今では人の善意を悪用して、寄付で集めたお金を着服したり、自分達の都合の良い団体へ寄付して、本来の寄付とは違う目的で使われていたり、ということがあります。でも、チロル堂で、チロったものが何に使わわれたのかが明らかになると、それは「まほう」ではなくなってしまいます。チロル堂の仕組みは「まほう」でなければならないのです。
チロル堂では、今、3年間色々模索しながら続けて、改良してきたこの「まほう」を、ある種、オープンソース化しようという取り組みをしてます。
ビジネスを考えると、じゃあこの仕組みをフランチャイズ化して、全国に展開してロイヤリティ取って…. みたいなことを考えてしまいそうですが、チロル堂は違います。純粋にこの「まほう」が全国各地に広がったほうがいいじゃないか、ということで、その思想やモデル、運営方法などをまとめた書籍を自費出版で作ろうとされてます。
イベントの中で坂本さんも仰ってましたが、そもそも「駄菓子屋」「飲食店」というただでさえ儲からないモデルに、「寄付」という、さらに儲からない要素を組み込んでるので、この仕組みで儲けることはかなり難しい、商売として存続させていくことだけでも精一杯という感じだそうです。
このモデルは儲けようと思って取り組んでも続けることは難しい。だから、ここで儲けなくても、何か別の事業や商売とうまくバランスが取れて成り立つようにして欲しい。坂本さんはそんな風に仰ってました。
クラファンで自費出版でつくろうとされている「まほうの書」は、そんな人にとっての手引書みたいなものになるのではないかなと思ってます。
僕自身はチロル堂の仕組みは素晴らしいと感動したのですが、でも、自分でチロル堂のモデルをやることは出来そうにもないので、とりあえず、クラファンでの支援と、機会があればチロル堂に行って飲み食いするしかないかなと思ってます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?