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お茶子の散歩はめんどうで愛らしい

 ぼくの家には「お茶子」という名前の豆柴がいる。現在3歳で、おてんばな性格だ。

だけど、お散歩デビューをしたのは2年半ほど前、生後4ヶ月くらいのときだから、もうずいぶん前の話になる。その頃から、お茶子は家でトイレをしなくなった。柴犬は綺麗好きでテリトリー内ではトイレをしながらないらしい。

 おかげで、冬の寒い日でも朝・夕・晩の三回散歩は欠かせない。面倒くさいときも正直あるけれど、ぼくは仕事を週10時間くらいにセーブするように設計していて、なるべく暇になるように働き方を調整しているから、そこまで大きな負担ではない。

ひとり社長という立場だと、自分のペースでスケジュールを組むことができるので、たとえば今日は午後に仕事をちょこっとやって、午前中はゆっくり休んでお茶子の散歩に行く。

そんな風にしても誰に文句を言われるわけでもないから、むしろありがたいといえばありがたい。

 散歩コースはいろいろあるけれど、夜は駅前へ行くことが多い。河川敷は真っ暗で、スマホのライトを当てないと足元もよく見えないし、お茶子が落ちているものを食べようとするのを止めるのに手こずる。

それに比べて駅前は、閉店前のスーパーの明かりがまだ届いていて比較的安心だ。ただ、スーパーもそろそろ店仕舞いの時間なので、疲れた顔で帰宅途中の人がちらほらいるくらい。みんな急ぎ足で家路を急いでいて、お茶子に構う余裕はなさそうだ。

 お茶子は人間が大好きで、声をかけてもらえると耳をぺたんと貼り付けた「飛行機ミミ」で全力アピールする。

でも夜のスーパー付近は「あ、かわいいワンちゃんだな」と思っていても、仕事帰りでバタバタしている人が多いせいか、あんまり声をかけてもらえない。それでもお茶子はどこかに自分をかまってくれそうな人はいないかとキョロキョロしている。残念ながら、なかなか目は合わない。

 一方でお茶子はほかの犬が苦手だ。散歩中にワンちゃんを見かけると気になるらしく、一瞬は近づこうとするのに、相手が吠えたりする。お茶子なりの「遊ぼう」アピールのようだけど、相手は萎縮するか無視するかのどちらか。

人間とは仲良くしたいけれど、犬との付き合いは下手くそだけど。けど、その下手くそさがかわいいといえばかわいい。

 ただ、夜の散歩は基本的にあんまり長居はしない。お茶子に薄手の服を着せているとはいえ、やっぱり冬の冷え込みはきつい。

ぼく自身も妻にもらったノースフェイスのファー付きキャップをかぶり、ダウンジャケットを着込んでいても、やはり風が強い日は体が冷えてくる。サッとトイレを済ませて、ひと回りして、さっさと帰るのがいつものパターンだ。

 そして夜が更けると、当たり前のようにお茶子はぼくたちのベッドにやってきて、真ん中を占領する。寝る場所はたくさんあるのに、なぜか隣同士より真ん中が落ち着くらしい。

冷たい風に身をすくめながら歩いて、サッと帰ってくるだけだけれど、それもお茶子と一緒に暮らすというこの生活の一部になっている。

めんどうだと感じることもあるけれど、暇を持て余しがちなぼくにはちょうどいいバランスかもしれない。

結局のところ、お茶子との夜の散歩がなかったら、こんなささやかな時間も生まれなかっただろうし、多少の手間をかけるくらいがちょうどいいのかな、と最近は思っている。

無駄なことが、わりと人生には必要なようだ。


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